前回の記事の続きです。
この記事では、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)を「本罪」といって説明します。
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に制限はありません。
未成年者の保護監督者も本罪の主体になり得えます。
最高裁決定(平成17年12月6日)は、親権者の1人である夫が他の親権者である妻の監護下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為について、未成年者略取罪に当たるとしています。
客体(被害者)
本罪の客体(被害者)は、「人」です。
男女の別、成人・未成年者の別を問いません。
未成年者は意思能力の有無にかかわりません。
未成年者であれば、意思能力を欠く嬰児であるか、成人に近い思慮を有する者であるかを問いません。
未成年者は、現実に他人の保護監督下にあることを要しません。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(明治44年3月31日)
他人の家に下女奉公に出ていた19歳の女性を欺罔し、飲食店に奉公させて前借金を受領したという事案です(R4.4.1より以前は未成年者とは20歳未満の者であった)
裁判所は、
- 実際上、意思能力ある未成年者に対して、いやしくもこれを欺罔して他所に誘致し、自己の支配内に置く以上は、誘拐罪を構成すべく
- 而して本件の如く営利の目的をもって誘拐したるときは、被誘拐者が未成年者たると否とを問わず、刑法第225条の罪をもって論ずべきなり
と判示しました。
本罪の客体(被害者)は、「人」であればよく、制限はありません。
自分の情婦に対して誘拐罪が成立することを認めた以下の判例があります。
大審院判決(大正13年3月5日)
裁判所は、
- 原判決はH女を被告の妾なりと認定したるに非ず
- 同人は、被告の情婦に過ぎざるに、被告は同人に対し、自己の妾と為して資金を与え、商業を営ましむべしと告げて、これを篭絡し来りたるを奇貨とし、同人に商業を営ましむるに付き、適当なる家屋を借受けるまで、一時他に預け置くべきにより、A方を立ち去るべき旨申欺き、同家を無断家出せしめ、同人を自己の実力的支配内に置き、誘拐を遂げたるものなりと認定したるものにして…
という事案について、
- 誘拐罪として処断したるは相当なり
と判示しました。