前回の記事の続きです。
この記事では、身の代金略取罪、身の代金誘拐罪、身の代金拐取罪(刑法225条の2第1項)を「本罪」といって説明します。
本罪の罪数の考え方
本罪の罪数の考え方について説明します。
同一機会に数人を略取し又は誘拐した場合は観念的競合となる
同一機会に数人を略取し又は誘拐すれば、観念的競合(刑法54条1項前段)とります。
参考となる以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和31年5月26日)
営利誘拐罪(刑法225条)の裁判例ですが、本罪でも考え方は同じです。
裁判所は、
- 営利誘拐罪はその被害法益の性質に鑑み、被誘拐ごとに独立して一罪を構成するものと解すべきであるから、原判決が所論原判示第一の(三)の所為を単純一罪と認めず、これに刑法第54条第1項前段を適用したのは正当である
と判示し、営利の目的で同時に数人を誘拐した場合の罪数について、観念的競合になるとしました。
本罪の目的で未成年者を略取・誘拐した場合には、本罪のみが成立し、未成年者略取罪は成立しない
本罪と未成年者略取・誘拐罪(刑法224条)との関係は、本罪が未成年者略取・誘拐罪を吸する関係にあります。
なので、本罪の目的(近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的)で未成年者を略取・誘拐した場合には、本罪のみが成立し、未成年者略取罪は成立しません。
※ より詳しい説明は前の記事参照
本罪と営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪との関係
本罪と営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)との関係について説明します。
営利の目的の場合には、「営利略取・誘拐罪」が本罪に吸収され、本罪のみが成立することに争いはありません。
しかし、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的の場合には、
- 本罪と「わいせつ略取・誘拐罪」、「結婚略取・誘拐罪」、「生命身体加害略取・誘拐罪」とは観念的競合になるする説
- 本罪のみが成立するという吸収説
とに分かれています。
吸収説に対しては、「営利略取・誘拐罪を本罪が吸収しうるのは、本罪が営利略取・誘拐罪の加重形式だからであり、そうした関係にないわいせつ目的による拐取を、当然には吸収しうるものではない」という批判があります。