前回の記事の続きです。
この記事では、営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪(刑法225条)を「本罪」といって説明します。
本罪は身分犯ではない
本罪の
- 営利の目的
- わいせつの目的
- 結婚の目的
- 生命若しくは身体に対する加害の目的
は刑法65条1項・2項の「身分」ではないとするのが多数説です。
この点、大審院判決(大正14年1月28日)は、
- 営利誘拐罪における営利の目的は、刑法第65条にいわゆる犯人の身分に非ず
と判示し、本罪の「営利の目的」について刑法65条1項・2項の身分犯でないとしています。
身分犯の共犯(共同正犯)
上記のとおり、本罪の目的は刑法65条にいう「身分」ではないと解するのが多数説・判例です。
したがって、営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的を持たない者が、共犯者として本罪の行為に加担しても、刑法65条(身分犯の共犯)の適用はありません。
なお、この場合に、略取・誘拐された者が未成年者であれば、営利・わいせつ目的等略取・誘拐罪の共犯ではなく、未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法225条)の正犯が成立します。
共同正犯
営利誘拐の実力支配の継続中に、情を知って犯行に加担し、その実行を分担した者には、営利誘拐罪の共同正犯が成立する
本罪の共同正犯(共犯)について、営利誘拐の実力支配の継続中に、情を知って営利誘拐の犯行に加担し、その実行を分担した者について、営利誘拐罪の共同正犯とした裁判例があります。
東京高裁判決(昭和31年8月20日)
Mが18歳末満の女性を接客婦として売り渡そうと企て、同女を誘拐した後、被告人が情を知ってMとともに同女を桐生市から豊橋市まで連れていき、T方に酌婦として住み込ませたという事案です。
裁判所は、
- 営利誘拐罪は、営利の目的をもって欺罔誘惑の手段を施し、不法に人を自己の実力支配内に置くことによって成立するのであるが、この罪はいわゆる継続犯の性格を持つものと解するのが相当であって、被誘拐者に対する実力支配が継続する間は、法律の保護しようとする被誘拐者の自由又は監督権者の監督権の侵害は依然として持続しているのであるから、その犯罪は、被誘拐者が犯人の実力支配内から離脱するまでは、なお、引き続き存続するものといわなければならない
と判示し、被告人を営利誘拐罪の共同正犯としました。