これから5回にわたり、所在国外移送略取罪、所在国外移送誘拐罪(刑法226条)を説明します。
この記事では、所在国外移送略取罪、所在国外移送誘拐罪を「本罪」といって説明します。
所在国外移送略取罪、所在国外移送誘拐罪とは?
所在国外移送略取罪、所在国外移送誘拐罪は、刑法226条に規定があり、
所在国外に移送する目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、2年以上の有期懲役に処する
と規定されます。
本罪は、所在国外移送目的による略取・誘拐を処罰する規定です。
所在国外移送目的により人を略取した場合の罪名は、「所在国外移送略取罪」となります。
所在国外移送目的により人を誘拐した場合の罪名は、「所在国外移送誘拐罪」となります。
略取・誘拐の意味
「略取」「誘拐」とは、
人を保護されている状態から引き離し、自己又は第三者の事実的支配の下に置くこと
をいいます。
略取と誘拐の区別
「略取」と「誘拐」との区別について、
- 「略取」は暴行又は脅迫を手段とする場合である
- 「誘拐」は欺岡又は誘惑を手段とする場合である
とするのが判例の立場です(より詳しい説明は前の記事参照)。
主体(犯人)
本罪の主体(犯人)に制限はありません。
未成年者の保護監督者も本罪の主体になり得ます。
未成年者の保護監督者が本罪の主体になり得るかどうかに関する判例として、以下のものがあります。
親権者の1人である夫(オランダ国籍)が、他の親権者である別居中の妻(日本人)の下で平穏に暮らしていた長女をオランダに連れ去る目的で、入院中の病院から有形力を用いて連れ出した行為について、所在国外移送略取罪に当たるとしました。
裁判所は、
- 日本人である妻と別居中のオランダ国籍の者が、妻において監護養育していた2歳4か月の子をオランダに連れ去る目的で入院中の病院から有形力を用いて連れ出した判示の行為は、国外移送略取罪に該当し、その者が親権者の1人として子を自分の母国に連れ帰ろうとしたものであることを考慮しても、その違法性は阻却されない
と判示しました。
客体(被害者)
本罪の客体(被害者)は、「人」です。
男女、成人・未成年者の別を問いません。
その所在地の国民、永住者のみでなく旅行者も含まれます。
例えば、日本人が海外旅行中に拉致されたような事案が起これば、本罪が成立します。