前回の記事の続きです。
この記事では、人身売買の罪(刑法226条の2)のうち、第1項の「人身買受け罪」を説明します。
人身買受け罪とは?
人身買受け罪は、刑法226条の2第1項に規定があり、
人を買い受けた者は、3月以上5年以下の懲役に処する
と規定します。
人身買受け罪は、人身売買の罪のうち人を買い受ける行為を処罰する規定です。
人の買受け行為自体が処罰されるのは、
- 人身買受け罪が、常に営利目的が認められる人身売渡し罪(刑法226条の2第4項)と必要的共犯(対向犯)の関係に立つこと
- 対価を払って人に対する支配を取得した点で、被買者の自由の更なる侵害の危険が高くなるため
です。
主体(犯人)
人身買受け罪の主体(犯人)に制限はありません。
主体(犯人)が被害者の保護監督者であっても、人身買受け罪が成立します。
客体(被害者)
人身買受け罪の客体(被害者)は、「人」です。
未成年者買受け罪(刑法226条の2第2項)との関係で「成年者」に限られます。
行為
人身買受け罪の行為は、
人を買い受けること
です。
「人を買い受ける」とは、
対価を払って現実に人身に対する不法な支配の引渡しを受けること
をいいます。
買受けの約束だけでは足りず、「現実に事実的支配の引渡しを受けること」を要します。
「引渡し」は、場所的移転を必要とするものではありません。
買受けの約束だけの場合は、人身買受け罪の未遂が成立し得ます(刑法228条)。
「現実に事実的支配の引渡しを受けること」の「支配」とは、
対象者に物理的又は心理的影響を及ぼして意思を左右できる状態に置き、自己の影響下から離脱するのを困難にさせること
をいいます。
支配を得たかどうかは、
- 自由拘束の程度
- 対象者の年齢
- 犯行場所などの具体的情況
を考慮し、社会通念によって決せられます。
人身買受けの対価
人身買受けの対価は金銭であることを要しません。
例えば、
- 被売者の労働・サービスの取得
- 債務の免除
- 支払猶予
も対価に当たります。
交換も売買に当たります。
交換も相互引渡しがなされない限り、人身買受け罪の未遂(刑法228条)となります。
人身買受け罪は目的犯ではない
人身買受け罪は、「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害人身買受け罪」(刑法226条の2第3項)とは異なり、故意以外に特段の目的を必要としません。
人身買受け罪の性格(継続犯又は継続犯)
人身買受け罪の性格について、継続犯と解する説と状態犯と解する説とに分かれています(継続犯と状態犯の説明は前の記事参照)。
共犯
「人身買受け罪」と成年者を対象とする「人身売渡し罪」(刑法226条の2第4項)とは、必要的共犯の関係に立ち、刑法60条(共犯の規定)の適用を要せず、共に正犯として処罰されます。
実行の着手時期、既遂時期
人身買受け罪の実行の着手時期は、
売買又は交換の申込みがあった時点
であり、売買又は交換の申込みがあれば買受け行為の実行の着手が認められ、この時点で、少なくとも、人身買受け未遂罪が成立することになります。
売買の約束だけでは足りず、現実に人身の受渡しがあった時に、人身買受け罪は既遂に達します。
売買又は交換の申込みの結果、人の支配の移転があれば、人身買受け罪が成立します。
人の支配の移転がなければ、人身買受け未遂罪が成立するにとどまります。
他罪との関係
被略取者等所在国外移送罪との関係
「人身買受け罪」と成年者を対象とする「被略取者等所在国外移送罪」(刑法226条の3)との関係については、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。
逮捕・監禁罪との関係
「人身買受け罪」を犯した後に、被買者を逮捕・監禁すれば、「人身買受け罪」と「逮捕・監禁罪」(刑法220条)は、牽連犯の関係になります。