刑法(人身売買の罪)

人身売買の罪(5) ~「人身売渡し罪とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、人身売買の罪(刑法226条の2)のうち、第4項の「人身売渡し罪」を説明します。

人身売渡し罪とは?

 人身売渡し罪は、刑法226条の2第4項に規定があり、

人を売り渡した者も、前項と同様とする

と規定されます。

 「前項」とは、刑法226条の2第3項の「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害人身買受け罪」の規定であり、

営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、人を買い受けた者は、1年以上10年以下の懲役に処する

とする規定です。

 人身売渡し罪は、刑法226条の2第1項~3項の人身の買受けの罪(人身買受け罪等)と必要的共犯関係に立つ人を売り渡す行為について、人を売り渡す場合には営利目的が認められることから、「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪」(刑法225条)と同じ刑で処罰するものです。

主体(犯人)

 人身売渡し罪の主体(犯人)に制限はありません。

客体(被害者)

 人身売渡し罪の客体(被害者)に制限はありません。

行為

 人身売渡し罪の行為は、

人を売り渡すこと

です。

 人を売り渡すとは、

対価を得て人身に対する支配を相手方に引き渡すこと

をいいます。

 売渡しの約束だけでは足りず、「現実に事実的支配の引渡しを受けること」を要します。

 「引渡し」は、場所的移転を必要とするものではありません。

 売渡しの約束だけの場合は、人身売渡し罪の未遂が成立し得ます(刑法228条)。

 「現実に事実的支配の引渡しを受けること」の「支配」とは、

対象者に物理的又は心理的影響を及ぼして意思を左右できる状態に置き、自己の影響下から離脱するのを困難にさせること

をいいます。

 支配を得たかどうかは、

  • 自由拘束の程度
  • 対象者の年齢
  • 犯行場所などの具体的情況

を考慮し、社会通念によって決せられます。

人身売渡しの対価

 人身売渡しの対価は金銭であることを要しません。

 例えば、

  • 被売者の労働・サービスの取得
  • 債務の免除
  • 支払猶予

も対価に当たります。

 交換も売買に当たります。

 交換も相互引渡しがなされない限り、人身売り渡し罪の未遂(刑法228条)となります。

共犯

 「人身売渡し罪」と「人身買受け罪」(刑法226条の2第1項)、「未成年者買受け罪」(刑法226条の2第2項)、「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害買受け罪」(刑法226条の2第3項)とは、必要的共犯の関係に立ち、刑法60条(共犯の規定)の適用を要せず、共に正犯として処罰されます。

実行の着手時期、既遂時期

 人身売渡し罪の実行の着手の時期は、

人の売買又は交換の申込みをした時点

です。

 人の売買又は交換の申込みがあれば買受け行為の実行の着手があったことになり、この時点で、少なくとも人身売渡し罪の未遂罪(刑法228条)が成立することになります。

 人身売渡し罪の既遂時期は、

人身の引渡しがあった時

です。

 人身の引渡しがあれば、対価の授受がなくても人身売渡し罪は既遂となります。

他罪との関係

 被略取者等所在国外移送罪(刑法226条の3)の犯人が本罪を犯した場合の罪数について、牽連犯説と併合罪説とに分かれています。

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