前回の記事の続きです。
この記事では、所在国外移送略取罪、所在国外移送誘拐罪(刑法226条)を「本罪」といって説明します。
略取・誘拐が所在国外移送の目的で行われれば本罪が成立し、現実に略取・誘拐された者を国外に移送したことを要しない
略取・誘拐が所在国外移送の目的で行われれば本罪が成立し、現実に略取・誘拐された者を国外に移送したことを要しません。
この点を判示した以下の判例があります。
大審院判決(昭和12年3月5日)
裁判官は、
- 刑法第226条第1項の国外誘拐罪は、帝国外に移送する目的をもって人を誘拐するによりて成立し、必ずしもその被誘拐者を帝国外に移送することを要するものにあらず
- また、同条第2項の国外移送罪は、単に同法第224条ないし第226条第1項の被誘拐者又は被害者を帝国外に移送するによりて成立し、移送者自ら人を誘拐し、若しくは売買することを必要とせざるが故に、両者はそれぞれ構成要件を異にする別個の犯罪にして、その一方が成立するときは、他方は当然にこれに包含又は吸収せられて別罪を構成せざるものということ能わず
- 従って、帝国外に移送する目的をもって人を誘拐したる者が、その被誘拐者を帝国外に移送したるときは、その行為中、誘拐の点は前示第226条第1項に、移送の点は同条第2項に各該当し、なおその両行為の間には、手段結果の関係あるをもって同法第54条第1項後段、第10条を適用すべきもと解すべく…
としました。
なお、本罪を規定する刑法226条は、平成17年に改正され、刑法226条2項は削除されています。
上記判例は改正前刑法226条1項・2項に基づいています。
平成17年改正前の刑法226条1項は、「日本国外に移送する目的」による略取・誘拐に限られていましたが、改正後は、「所在国外に移送する目的」による略取・誘拐にまで処罰範囲が拡大されました。
処罰範囲が拡大された理由としては、所在国に引き続きとどまる自由、現に所在しているという事実状態自体を保護する必要性が高いことが挙げられています。
平成17年改正前の刑法226条2項は削除され、その前半部分(日本国外に移送する目的
による売買)は現行法の刑法226条の2第5項に、また、後半部分(被拐取者・被売買者の日本国外への移送)は刑法226条の3に包含されることとなりました。