前回の記事の続きです。
この記事では、刑法227条の罪のうち、第1項の
- 営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等収受罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等輸送罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等蔵匿罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等隠避罪
を説明します。
この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。
共犯(身分犯の共犯)
本罪(刑法227条第1項)の目的は、
を犯した者を幇助する目的です。
本罪の目的は、刑法65条(身分犯の共犯)にいう「身分」ではないと解されています。
なので、本罪の目的を持たない者が本罪の行為に加担しても、刑法65条は適用されません。
既遂時期
本罪は、
引渡し・収受・輸送・蔵匿・隠避によって略取・誘拐され又は売買された者の自由侵害が更に持続され強化された時
に既遂となります。
略取・誘拐され又は売買された者を自己の支配下に置くことについての約束だけで、まだ交付を受けていない場合には、収受の未遂となります。
発見を妨げるべき場所を提供していないや、所定の場所へ連行中であるなどの場合には蔵匿の未遂となります。
蔵匿以外の方法でその発見を免れるための行為をしたが隠避させ得なかった場合には、隠避の未遂となります。
罪数、他罪との関係
1⃣ 同時に数人を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿し、隠避させた場合は、
- 営利略取等幇助目的被略取者等引渡し罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等収受罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等輸送罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等蔵匿罪
- 営利略取等幇助目的被略取者等隠避罪
の各罪は観念的競合になります。
2⃣ 略取・誘拐された同一の者に対し、引渡し、収受、輸送、蔵匿、隠避の行為のうち2つ又は3つに当たる行為をした場合には、上記①~⑤の罪は包括一罪となります。
3⃣ 営利・わいせつ等略取・誘拐罪(刑法225条)の教唆者も本罪を犯し得ます。
この場合、「営利・わいせつ等略取・誘拐罪の教唆罪」と「本罪」とは併合罪になると考えられます。
4⃣ 営利やわいせつ目的(刑法225条)と身の代金目的(刑法225条の2第1項)の両方の目的を持って略取・誘拐した犯人を幇助する目的で蔵匿等をしたような場合には、本罪は、本罪よりも法定刑が重い「身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し等罪」(刑法227条2項)に包括され、「身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し等罪」のみが成立します。
5⃣ 本罪(刑法227条第1項)の目的は、
を犯した者を幇助する目的です。
収受者(誘拐された者を収受した者)に
- 本罪の目的
と
- 営利、わいせつ等の目的(刑法227条3項)
とが併存する場合には、本罪は成立せず、本罪よりも法定刑の重い「営利被略取者等引渡し等罪」(刑法227条3項)のみが成立します。
6⃣ 「営利略取等幇助目的被略取者等収受罪」(刑法227条1項)と「収受者身の代金取得・要求罪(刑法227条4項後段)との関係については、
に分かれています。
拐取者の拐取目的を錯誤した場合
拐取者の拐取目的を錯誤し、被拐取者の引渡しを受けた場合に、どの犯罪が成立するかの考え方は以下のとおりです。
身の代金目的略取・誘拐罪(刑法225条の2第1項)を犯した者を幇助しようとしたが、実はその者が営利・わいせつ等略取・誘拐罪(刑法225条)の犯人であったような場合には、刑法227条第2項(身の代金拐取幇助目的被略取者等引渡し罪)ではなく、本罪が成立します。
その逆の場合、例えば、営利・わいせつ等略取・誘拐罪(刑法225条)を犯した者を幇助しようとしたところ、実はその者が身の代金目的略取・誘拐罪(刑法225条の2第1項)を犯した者であったような場合には、刑法38条2項により自己の認識した略取・誘拐罪についての事後従犯として本罪が成立します。