刑法(被略取者引渡し等の罪)

被略取者引渡し等の罪(6) ~刑法227条3項の罪「営利被略取者等引渡し・収受・輸送・蔵匿罪とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

 この記事では、刑法227条の罪のうち、第3項の

  • 営利被略取者等引渡し罪
  • 営利被拐取者等収受罪
  • 営利被拐取者等輸送罪
  • 営利被拐取者等蔵匿罪

を説明します。

 この記事では、上記各罪を「本罪」といって説明します。

営利被略取者等引渡し・収受・輸送・蔵匿罪とは?

 本罪は、刑法227条第3項に規定があり、

営利、わいせつ又は生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取され、誘拐され、又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿した者は、6月以上7年以下の懲役に処する

と規定されます。

 本罪は、

営利、わいせつ、生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取・誘拐され又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿する行為

を処罰するものです。

※ 略取・誘拐の意義については前の記事参照

主体(犯人)

 本罪の主体(犯人)から、

  1. 未成年者略取・誘拐罪刑法224条
  2. 営利等略取・誘拐罪刑法225条
  3. 身の代金略取・誘拐罪刑法225条の2第1項
  4. 所在国外移送略取・誘拐罪刑法226条
  5. 人身売買の罪刑法226条の2
  6. 略取者等所在国外移送罪刑法226条の3

の正犯は除外されるとする見解があります。

 それ以外に本罪の主体(犯人)に制限はありません。

客体(被害者)

 本罪(刑法227条第3項)の客体(被害者)は、

  • 略取され、誘拐された者(どの略取・誘拐罪によるものかは問わない)

   又は

です。

本罪の行為

 本罪の行為は、

営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的で、略取・誘拐され又は売買された者を引き渡し、収受し、輸送し、又は蔵匿すること

です。

「営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的」とは?

「営利の目的」とは、

財産上の利益を得又は第三者に得させる目的

をいいます。

「わいせつの目的」とは、

略取・誘拐された者をわいせつ行為の主体又は客体とする目的

をいいます。

「結婚の目的」とは、

行為者又は第三者と結婚させる目的

をいいます。

「生命若しくは身体に対する加害の目的」とは、

行為者又は第三者が略取・誘拐された者を殺害し、傷害し又はこれに暴行を加える目的

をいいます。

※ 本罪の「営利、わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的」の意義は、「営利・わいせつ・結婚・生命身体加害略取・誘拐罪」(刑法225条)と同様です。

 「営利の目的」の詳しい説明は、営利・わいせつ等略取・誘拐罪(3)の記事参照

 「わいせつ、結婚、生命若しくは身体に対する加害の目的」詳しい説明は、営利・わいせつ等略取・誘拐罪(4)の記事参照

「引渡し」「収受」、「輸送」、「蔵匿」とは?

 「引渡し」とは、

略取・誘拐され又は売買された者の支配を他の者に移転させること

をいいます。

 「収受」とは、

有償・無償を問わず、略取・誘拐され又は売買された者の交付を受けて自己の実力支配下に置くこと

をいいます。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を有償で取得すれば、人身売買罪刑法226条の2)が成立することになります。

 略取・誘拐者から、略取・誘拐され又は売買された者を直接収受する場合のほか、収受者から更に収受する場合も「収受」に含みます。

 「輸送」とは、

略取・誘拐され又は売買された者を特定の場所から他の場所へ移転させること

をいいます。

 「蔵匿」とは、

略取・誘拐され又は売買された者の発見を妨げる場所を提供すること

をいいます。

 したがって、「蔵匿」は必ずしも略取・誘拐され又は売買された者を犯人自身の手元に置くことを要しません。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治44年7月28日)

 裁判所は、

  • 刑法第227条にいわゆる蔵匿とは、被拐取者にその発見を妨ぐべき場所を供給することを指称するものとす
  • 而して原判決に認めたる如く、被告AがBの被誘拐者なることを知りながら、被告Cらを幇助するため、旅館の投宿人名簿にBの住所、氏名、年齢を偽り記入し、同旅館に滞在せしめたるは、すなわち被誘拐者たるBの発見を妨げるため、詐欺の手段を用い、これに一定の場所を供給したるものにして、その行為が刑法第227条第1項の犯罪を構成するやもとより論なし

と判示しました。

共犯(身分犯の共犯)

 本罪の目的は、

営利、わいせつ、生命若しくは身体に対する加害の目的

です。

 本罪の目的が刑法65条(身分犯の共犯)にいう「身分」かどうかについては、否定説と、身分による刑の加重に準じて理解して差し支えないとする見解とに分かれています。

収受の対象者の属性の認識の錯誤は、本罪の成立に影響を及ぼさない

 本罪が成立するためには、犯人において収受の対象が

略取・誘拐され又は売買された者であること

の認識があれば足りるので、略取・誘拐された者が

の認識の錯誤は、本罪の成立に影響を及ぼしません。

既遂時期

 本罪は、

引渡し・収受・輸送・蔵匿によって略取・誘拐され又は売買された者の自由侵害が更に持続され強化された時

既遂となります。

 略取・誘拐され又は売買された者を自己の支配下に置くことについての約束だけで、まだ「引渡し・収受・輸送・蔵匿によって略取・誘拐され又は売買された者」の交付を受けていない場合には、本罪の未遂(刑法228条)となります。

罪数、他罪との関係

1⃣ 同時に数人を引き渡し、収受し、輸送し、蔵匿した場合は、

  1. 営利被略取者等引渡し罪
  2. 営利被拐取者等収受罪
  3. 営利被拐取者等輸送罪
  4. 営利被拐取者等蔵匿罪

の各罪は観念的競合になります。

2⃣ 略取・誘拐された同一の者に対し、引渡し、収受、輸送、蔵匿の行為のうち2つ又は3つに当たる行為をした場合には、上記①~④の罪は包括一罪となります。

3⃣ 営利・わいせつ等略取・誘拐罪刑法225条)の教唆者も本罪を犯し得ます。

 この場合、「営利等略取・誘拐罪の教唆罪」と「本罪」とは併合罪になると考えられます。

4⃣ 本罪の目的(営利、わいせつ、生命若しくは身体に対する加害の目的)と身の代金目的(刑法227条第4項前段)とが併存する場合には、本罪は「身の代金被拐取者収受罪」(刑法227条第4項前段)に包括して評価され、本罪は成立せず、「身の代金被拐取者収受罪」のみが成立します。

5⃣ 本罪と「収受者身の代金要求罪」(刑法227条第4項後段)との関係については、

  • 本罪が「収受者身の代金要求罪」に吸収されるという見解
  • 牽連犯とする見解
  • 併合罪とする見解

に分かれています。

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