前回の記事の続きです。
不動産侵奪罪の客体(他人の占有する不動産)
不動産侵奪罪(刑法235条の2)の客体は、
他人の占有する不動産
です。
「他人の占有する不動産」の「他人」とは?
「他人の占有する不動産」の「他人」とは、
自然人、法人を問わず、自分以外の不動産を所有し得る主体
を意味します。
国や地方公共団体の場合も、ここにいう他人に当たります。
自己所有(犯人所有)の不動産であっても、他人の占有に属したり、公務所の命により他人が看守しているときは、「他人」の不動産となります(刑法242条)。
「他人の占有」の意義
「他人の占有する不動産」の「他人の占有」は、法律上の正当な権原に基づくものであるかどうかを問いません。
この点に関する以下の判例があります。
裁判所は、
- 所持者が法律上正当にこれを所持する権限を有するかどうかを問わず物の所持という事実上の状態それ自体が独立の法益として保護され、みだりに不正の手段によつて侵害することを許さない
と判示しました
裁判所は、
- 刑法第235条の2の不動産侵奪罪の規定は、他人の不動産に対する事実上の所持を、独立の法益として保護しようとするものであって、その所持者が法律上正当にこれを所持する権限をもつか否かを問わない
と判示しました。
「他人の占有する不動産」の「占有」とは?
1⃣ 「他人の占有する不動産」の「占有」は、本権(所有権・地上権・賃借権など)又は正当な権原による必要はありません。
この点に関する以下の判例があります。
執行官の仮処分による不動産の占有につき、裁判所は、
- 執行官が裁判所の仮処分決定に基づき保管中の他人所有の建物の一室は、それがいわゆる本権に基づく占有といえないとしても不動産侵奪罪の対象となる
と判示し、執行官が仮処分決定に基づき保管中の建物の一室は不動産侵奪罪の対象となるとしました。
2⃣ 「占有」は、権原のない場合であってもよいとされます。
これは、不動産侵奪罪は事実上の占有状態を保護するものだからです。
3⃣ また、不動産に対する占有は、権利者が直接的に看守・管理を行うことが困難な山奥の山林や遠隔地の家屋・空地などについても権利者の占有が及んでいると考えるのが社会通念に合致していると考えられています。
参考となる判例・裁判例として以下のものがあります。
所有者による現実の支配管理が困難になった土地上に大量の廃棄物を堆積させた行為につき不動産侵奪罪が成立するとされた事例です。
事案は、X社が、振り出した小切手が不渡りとなったため、債権者の一人であるY社の要求により、Y社に地上建物の賃借権とこれに付随する本件土地の利用権を設定し、Y社に本件土地及び地上建物の管理を委ね、その後Y社が同権利を競売物件の売買仲介業を営むZ社に譲り渡し、そのころ、X社は、代表者が家族とともに行方をくらまし、事実上廃業状態となっていたところ、建築解体業を営む被告人は、Z社から同権利を買い受けて、本件土地の引渡しを受けた後、これを廃棄物のせ、容易に原状回復をすることができないようにしたというものです。
裁判所は、X社が占有を喪失したとはいえないとした上、
- 所有者による現実の支配管理が困難になった土地について、一定の利用権を有する者が、その利用権限を超えて地上に大量の廃棄物を堆積させ、容易に原状回復をすることができないようにしたときは、所有者の占有を排除し自己の支配下に移したものとして、不動産侵奪罪が成立する
と判示しました。
東京高裁判決(昭和44年2月20日)
裁判所は、所有者の承諾を得て留守番として建物に無償で居住していた被告人に対し、
- 本件のように、たとえ所論の指摘する間接占有であっても、権利者に本件土地についての占有の意思がある以上、その占有を排除して、これまで一時使用を是認されていたに過ぎない本件土地の上に …恒久的な貸しビル新築工事に着手し、板塀の構築などをさせた行為は侵奪に当たる
とし、侵奪の対象とされた占有は、間接占有で足りるとしました。