前回の記事の続きです。
背任後の背任があった場合の背任罪の罪数の考え方
先行の背任行為と後行の背任行為が併合罪になるとする場合の考え方
不動産の所有者Xが他の者Aのため抵当権を設定したものの、その抵当権設定登記手続を了することなく、別の者Bのため抵当権を設定し、抵当権設定登記手続を了した際(二重抵当)、背任罪が成立すると解するとした場合、更にこの所有者Xが別の者Cに当該不動産を売却し、所有権移転登記手続を了した時に、Xについて、Aとの関係で重ねて背任罪が成立するか否かという問題(背任後の背任)があります。
この場合、先行の背任罪は、抵当権の順位保全に協力すべぎ義務に違反し、Aの1番抵当権を後順位とするものにすぎませんが(Aは依然として未登記の2番抵当権を有しているので、Xが2番抵当権の保全に協力すべき義務は残存している)、後行の背任行為(Cへの売却)は、抵当権そのものの保全に協力すべき義務に違反してAの抵当権そのものを消減させるものであるから、別個に成立し得ると解すべきで、併合罪になるとの考え方があります。
この考え方を採った裁判例として、以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和38年4月9日)
Xがその所有建物に根抵当権を設定してAから融資を受け、根抵当権設定登記に必要な書類を交付したものの、Aにおいて未だ根抵当権設定登記を完了していないことを奇貨とし、同建物を担保にBから融資を受けて所有権移転請求権保全の仮登記及び第1順位の抵当権設定登記をし、さらに自己の利益を図る目的で、当該建物をCに売却して所有権移転登記を完了したとの事案です。
裁判所は、
- Xは、弁済によりBの第1順位の抵当権を消減させてその登記を抹消し、Aのために第1順位の根抵当権の設定登記をなすことが可能なのである
- 仮にBの抵当権設定登記がそのままになっていても少なくともAのため第2類位の抵当権の設定登記をなし、 Aのこうむる損害を防止することも可能であったはずである
- したがって、Xが、本件建物につきAのために抵当権を設定しながらその未登記の間に更にBのために抵当権を設定しその登記をしたことは、それがAに対する関係で背任罪を成立することは別論として、これによりXのAに対する根抵当権設定登記協力義務は履行不能となることなく、依然として存続し、その後Xにおいてその義務に違背して右建物をCに売却譲渡しその所有権移転登記をなすことは不能となると認められるから、この時点において新たに別個の背任罪の成立することは論を俟たないところである
として背任罪の成立を認めました。
この判決に対し、学説では、
- Xがさらに、不動産の所有権を移転し、登記を完了してAの2番抵当権を完全に消減させることは、さきに行われた任務違背とは別個に、独立したあらたなより重い任務違背行為としての評価をうけ、あらたに背仼罪の成立を認めるのが正しい解決だと思われる
- つまり、最初の背任行為は、抵当権の順位保全に協力すべき義務の違反、第2の背任行為は、抵当権そのものの保全に協力すべき義務の違反として、共通の基礎に立脚しつつ、それぞれ独立の可罰性を根拠らけるに対するものと認めるべきものである
と述べるものがあります。
先行の背任行為と後行の背任行為は包括一罪になるとする場合の考え方
事案の内容によっては、先行の背任行為と後行の背任行為は併合罪ではなく、包括一罪であると評価される場合もあります。
参考となる以下の裁判例があります。
東京地裁判決(平成5年12月9日)
根抵当権を設定した不動産について、その登記未了の間に、第三者のために譲渡担保に供した行為及びその後これを他に譲渡した行為について、包括して1個の背任罪を構成するとしました。