前回の記事の続きです。
公務員の背任行為における背任罪と加重収賄罪との関係
公務員の背任行為においては、その対価として賄賂が渡されることがあります。
この場合、背任罪(刑法247条)と加重収賄罪(刑法197条の3第1項・2項)とが成立することが考えられます。
両罪が成立するとした場合、両者がいかなる関係に立つのかについては、以下の3つの見解があります。
① 観念的競合の関係に立つとする見解
背任罪と加重収賄罪が観念的競合の関係に立つとした以下の判例があります。
大審院判決(大正8年10月21日)
県の職員が賄賂を収受し、この贈賄者のため税額等を故意に過小査定するなどして税額を免脱させ、県にほ脱額相当の損害を与えた事案です。
裁判所は、
- この職員の行為は加重収賄罪と背任罪に当たり、両者は観念的竸合の関係に立つ
としました。
② 併合罪とする見解
背任罪と加重収賄罪が併合罪の関係に立つとした以下の判例があります。
防衛庁(当時)調達実施本部副本部長等の職にあった者が、装備品の製造請負契約における、水増し請求の過払い相当額を国に返還さるに当たり、その返還額を減額する背任行為に及んだ後、防衛庁を退職し水増し請求をしていた私企業の関連会社の非常勤の顧問となり、顧問料の供与を受けた事案です。
最高裁は、背任罪と事後収賄罪等とが併合罪に立つとの第一審判決(東京地裁判決 平成11年10月12日)及び控訴審判決(東京高裁判決 平成16年11月26日)を是認しました。
【参考】
公務員でない者が、公務員に対して賄賂を渡して背任行為をさせた行為について、背任教唆罪と贈賄罪(刑法198条)の併合罪が成立するとした以下の判例があります。
大審院判決(大正12年3月23日)
事案は、Xが印紙切手の取扱業務を担当する公務員Yに対し、自己の利益を図るため、正規の手続に違背して不正に多額の収人印紙をXに払い下げるよう教唆し、Yにそのような行為をさせ、その後その謝礼としてYに賄賂を贈ったという事案で、背任教唆罪と贈賄罪の併合罪が成立するしました。
③ 背任罪が加重収賄罪に吸収されるとする見解
学説では、背任罪が加重収賄罪に吸収されるとする見解があります。