刑法(背任罪)

背任罪(3)~行為①「『任務に背く行為』(任務違背行為)とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

「任務に背く行為」(任務違背行為)とは?

 背任罪は刑法247条において、

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 そして、背任罪(刑法247条)の行為は、

自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を加えること

です。

 「任務」とは、

事務処理者としての信任関係に基づき、具体的事情の下で法的に期待された義務

をいいます。

 「任務に背く行為」(任務違背行為)とは、

委託の趣旨に反する行為

のことをいい、具体的には、

事務の処理者として当然になすべく法的に期待される行為をしないこと

をいいます。

 自ら所管する事務について任務に背いた行為をした場合には、それが決裁権を有する上司の決定・指示によるものであり、自らはそれについて反対あるいは消極的意見を具申したとしても、任務違背がないとはいえません(最高裁決定 昭和60年4月3日)。

 どのような行為が任務違背行為となるかは、

  • 法律の規定、通達、内規、事務処理規則
  • 契約の内容、取引上の慣習、委託の趣旨
  • 信義誠実の原則等の条理
  • 社会通念
  • 処理すべき事務の性質・内容・原因・信任関係の態様

などに照らして判断されます。

 任務違背行為であると認定された行為として、以下のものがあります。

  • 町村長・公共組合の理事長などが、保管公金を正規の手続によらず、その町村・組合の名義で不当貸付をした行為(大審院判決 昭和8年3月16日、大審院判決 昭和9年7月19日)
  • 金融機関の事務担当者が、回収の見込みがないのに無担保又は不足担保で不良貸付をした行為(大審院判決 大正15年9月23日、最高裁決定 昭和38年3月28日
  • 質商の雇人が、入質者の利益のため質物に対して普通の質取価格よりも不当に多額の貸出しをした行為(大審院判決 大正3年6月13日)
  • 会社の取締役が、配当すべき利潤があったように仮装してタコ配当をする行為(大審院判決 昭和7年9月12日、東京地裁判決 昭和57年2月25日)
  • 消費貸借、保証、約束手形小切手の振出・保証・裏書などによって、任務に背いて債務を負担させた行為(最高裁決定 昭和40年5月27日
  • 運送業者・倉庫業者が貨物引換証・質入証券との引換なしに運送品・受寄物を引き渡した行為(大審院判決 明治44年12月19日、大審院判決 昭和7年11月24日)
  • 払下価格決裁の資料を作成すべき任務ある公務員が、払下請求人の利益を図り不当に廉価な予定価格案を作り上司をしてこれに基づき払下げの決裁をさせた行為(大審院判決 昭和9年5月28日)
  • 売掛代金を受け取るべき任務を有する者が商品の返戻を受けた旨の虚偽の事実を帳簿に記載した行為(大審院判決 大正3年6月20日)
  • 自己の不動産に抵当権を設定した後、まだその登記がないのを奇貨として、更に他の者に対して抵当権を設定してこれを登記した行為(二重抵当)(最高裁判決 昭和31年12月7日
  • 県知事の許可を条件として自己の農地を売り渡した者が、許可前に更に他の者に対して抵当権を設定してこれを登記した行為(最高裁判決 昭和38年7月9日
  • 地方自治体の長が地方税を過少賦課した行為(最高裁決定 昭和47年3月2日
  • 自己が管理していた顧客情報の入ったフロッピーシートのデータを、会社に無断で自己が使用するコンピューターに入力して盗用した行為(東京地裁判決 昭和60年3月6日)

任務違背行為は不作為によるものでもよい

 任務違背行為は、必ずしも作為による必要はなく、不作為によるものであってもよいです。

 例えば、

  1. 財産管理人が債権を行使しないで消滅時効にかからせる行為
  2. 他人のために物品を保管している者が第三者の不法搬出行為を黙認した行為

が該当します。

 ②の行為につき、以下の裁判例があります。

高松高裁判決(昭和27年9月30日)

 裁判所は、

  • Aのため、A所有の物件を保管している者が自己の利益を図るため(後記Bが右物件を売却して取得する代金中より自己のBに対する貸金を回収するため)、Bが右物件を不法に搬出するのを黙認して、これを防止しあるいはAに通報する等の措置をとらず、すなわち保管者としての任務に背いた行為(不行為)をしてAに対し右物件の価格相当の損害を加えたときは、背任罪を構成する

と判示しました。

単にリスクが高い取引をして損害を与えた行為は背任罪を構成しない

 財産に関する事務が投機的性質を有する冒険的取引(投資・株式売買などのリスクが高い取引)においては、それが社会生活上の一般通念に従って許される範囲内で行われている限りは、仮にその行為によって本人に損害を加えても、直ちに背任行為とはいえず、背任罪が成立するとはいえません。

 冒険的取引が任務違背行為といえるかどうかは、事務の性質・内容・取引当時における具体的状況に応じて総合的に判断されることになります。

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