刑法(背任罪)

背任罪(5)~行為③「『自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的』とは?」を説明

 前回の記事の続きです。

「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」とは?

 背任罪は刑法247条において、

他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する

と規定されます。

 そして、背任罪(刑法247条)の行為は、

自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をして、本人に財産上の損害を加えること

です。

 この記事では、「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」について説明します。

 背任罪は目的犯であり、

  • 自己若しくは第三者の利益を図る目的

   又は

  • 本人に損害を加える目的

をもって任務違背行為を行わなければ、背任罪は成立しません。

 この目的を「図利加害目的」といいます。

「自己若しくは第三者の利益を図る目的」の「利益」とは?

 「自己若しくは第三者の利益を図る目的」の「利益」は、必ずしも財産的利益に限る必要はなく、

身分上の利益その他すべて自己の利益も含まれる

とするのが判例です。

大審院判決(大正3年10月16日)

 裁判所は、

  • 刑法第247条にいわゆる自己の利益を図るとは、身分上の利益その他全て自己の利益を図る目的なるをもって足り、必ずしもその財産上の利益を図る目的なることを要せず

と判示しました。

 したがって、

  1. 自己の信用・面目を保持する目的(最高裁決定 昭和63年11月21日
  2. 不良貸付の発覚を防ぐ目的 ・会社役員の地位を得る目的

も、ここにいう自己の利益を図る目的に当たります。

図利加害目的があるといえるためには、図利加害の点につき、意欲や積極的認容までは要しない

 判例は、図利加害目的を肯定するには、図利加害の点につき、意欲又は積極的認容までは要しないとします。

最高裁決定(昭和63年11月21日)

 裁判官は、

  • 特別背任罪における図利加害目的の存在を肯認するには、図利加害の意欲ないし積極的認容までを要するものではない

と判示しました。

背任罪が成立するためには、「利得の目的」と「加害の目的」のいずれか一方が必要である

 背任罪が成立するためには、

  • 自己若しくは第三者の利益を図る目的(利得の目的)
  • 本人に損害を加える目的(加害の目的)

のいずれか一方だけがあれば足り、両者が併存する必要はないとされます。

 さらに、「利得の目的」は、自己の利益を図る目的と第三者の利益を図る目的のいずれか一方だけあればよいとされます。

専ら本人の利益を図る目的で任務違背行為した場合は、背任罪は成立しない

 任務違背行為をして、本人に損害を加えたとしても、専ら本人の利益を図る目的でした場合には、背任罪は成立しないとされます。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正3年10月16日)

 裁判所は、

  • 他人のためその事務を処理する者がその任務に背きたる行為を為し、本人に損害を加えたる場合といえども、本人の利益を図る目的に出てたるときは犯罪を構成せず

と判示しました。

 この点、事案によっては、任務違背行為が一面においては自己又は第三者の利益を図る目的でなされているようにみられるけれども、他面において本人の利益を図る目的でなされたとみられる場合もあり得ます。

 このような場合には、目的の主従(より重点が置かれているか)によって判断されます。

 この点に関する以下の判例があります。

最高裁判決(昭和29年11月5日)

 背任罪における目的の主従と背任罪の成否について、裁判所は、

  • 主として、第三者に対し不法に金融して第三者の利益を図る目的がある以上、従として、右融資により本人(貯蓄信用組合)の貸付金回収を図る目的があっても、背任罪を構成する

と判示しました。

東京高裁判決(昭和42年12月15日)

 自己若しくは他人の利益を図る目的に付随して本人の利益を図る目的がある場合と背任罪の成否について、裁判所は、

  • 背任罪の成立には、他人のためその事務を処理する者が自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人に損害を加える目的をもってその任務に背いた行為をすることを要し、単に本人の利益を図る目的のみをもって行為するだけでは足りないが、主として自己もしくは他人の利益を図る目的がある以上、たとえこれに付随して本人の利益を図る目的があっても、本罪の成立を妨げないものと解するのを相当とする

と判示しました。

最高裁決定(平成10年11月25日)

 特別背任罪(当時の商法486条1項違反)における第三者図利目的があるとされた事例です。

 裁判所は、

  • 相互銀行の行員らが、土地の購入資金及び開発資金等の融資に当たり、右融資は土地の売主に対し遊休資産化していた土地を売却して代金を直ちに入手できるなどの利益を与えるとともに、融資先に対し大幅な担保不足であるのに多額の融資を受けられる利益を与えることになることを認識しつつ、あえて右融資を実行することとしたものであり、相互銀行と密接な関係にある売主に所要の資金を確保させることによりにひいて相互銀行の利益を図るという動機があったにしても、それが融資の決定的な動機ではなかったなどの事情の下では、右役員らに特別背任罪における第三者図利目的を認めることができる

と判示しました。

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