刑法(背任罪)

背任罪(6)~「背任罪の故意」を説明

 前回の記事の続きです。

背任罪の故意

 背任罪は故意犯(刑法247条)です(故意犯の説明は前の記事参照)。

 背任罪の故意が認められるためには、

  1. 自己の行為がその任務に背くことの認識・認容(任務違背の認識)
  2. その結果、本人に財産上の損害を加えることの認識・認容(財産上の損害発生の認識)

の2つが必要となります。

①の任務違背の認識・容認について

 任務に違背することの認識がなければ、利得の目的で背任行為をし、本人に財産上の損害を与えても、背任罪は成立しません。

②の財産上の損害発生の認識・容認について

 ②の財産上の損害発生の認識については、必ずしも確定的認識であることを要せず、未必的なもので足りるとした判例があります(未必の故意の説明は前の記事参照)。

大審院判決(大正13年11月11日)

 裁判所は、

  • 背任罪における財産上損害の認識は確定のものなることを要せず、損害の生じ得べきことの認識あるをもってたる

と判示しました。

最高裁決定(昭和43年4月26日)

 裁判所は、

  • 背任罪が成立するためには、未必的にもせよ、その行為の結果本人に財産上の損害を加える認識のあったことを必要とすることはいうまでもないところである

と判示しました。

 例えば、会社の意向に反して、回収困難であることが分かっていながら、顧客に対して金を貸し付けた場合、貸した金が回収できないかもしれないという損害発生の認識は、通常は回収困難を来す可能性の認識となるので、未必的な認識となります。

 よって、財産上の損害発生の認識は未必的なものでよいとする結論は妥当であるとなります。

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