刑法(背任罪)

背任罪(7)~「既遂時期」「背任未遂罪」を説明

 前回の記事の続きです。

背任罪の既遂時期

 背任罪(刑法247条)は、

  1. 任務違背行為によって本人に財産上の損害を負わせた時点
  2. 背任行為が本人に経済的損害を与えるものであるときは、任務違背行為が終了した時点

に既遂に達し、背任罪が成立します(既遂の説明は前の記事参照)。

①の既遂時期について

 ①の「任務違背行為によって本人に財産上の損害を負わせた時点」で既遂に達することについて判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和9年4月21日)

 裁判所は、

  • 日歩25銭以内にて手形割引周旋の依頼を受けたる者が自己の利益を図り、委託の本旨に背き、日歩55銭の高日歩にて第三者より手形の割引を受けたる場合の如きは、その背任行為の終了と同時に委託者本人に対し、その日歩の差額に相当する財産上の損害を加えたるものとす

と判示しました。

「財産上の損害」とは?

 「財産上の損害」とは、一般に、広く財産上の価値の減少をいいます(大審院判決 大正2年4月17日)。

 最高裁判例(昭和58年5月24日)は、

  • 刑法247条にいう「本人に財産上の損害を加えたるとき」とは、経済的見地において本人の財産状態を評価し、被告人の行為によって本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいう

と判示しています。

 つまり、「財産上の損害」とは、

  1. 既存財産の減少を内容とする積極的損害(例えば、不当に低い価格で本人の財産を売り払う行為)
  2. 財産増加の妨害を内容とする消極的損害(例えば、得られたはずの利益を受け取らない行為)

とがあります。

②の既遂時期について

 ②の「背任行為が本人に経済的損害を与えるものであるときは、任務違背行為が終了した時点」に既遂に達する場合とは、例えば、不良貸付の場合が該当します。

 不良貸付を実行した場合は、不良貸付の行為が終了した時点で背任罪は既遂に達し、背任罪が成立します。

 この時、損害額は必ずしも確定する必要はありません。

 この点を判示したのが以下の判例です。

大審院判決(大正15年9月23日)

 裁判所は、

  • 銀行の金利貸付取立事務を担当する者は、その行金を適当に運転して利殖を図るべき任務を有することもちろんなるをもって、資カ及び信用の乏しき者に対し無担保にして行金を貸出すにおいては、回収不能なりと銀行の損失を招くべきことを認識しながら無担保貸付を為し、又は貸付元金の取立を放漫に付する結果、当然銀行に財産上の損害を生ずべきことを認識しながら、敢えてこれを為すは、その任務を誠実に遂行したるものというべからざるが故に、これがためその認識に係る損害を生ぜしめたるときは、その貸付元金は、右背任行為により銀行が現実受けたる損害にしてその利息は元本の運転により銀行の得べかりし利益の喪失にほかならずして、もし適当なる貸付により 該利息を取得せんか更にこれを元本として運転し利殖を為し得べきをもって複利方法によりて算出したる利息全部は元本と等しく背任行為に基づく損害というを得べし

と判示し、背任罪が成立するとしました。

背任罪が既遂に達した後に、背任行為によって発生した損害を後から補填しても背任罪の成立は否定されない

 経済的にみて損害が発生した以上、背任は既遂に達します。

 背任罪が既遂に達して成立した後に、犯人が損害額の一部を補填したとしても、背任罪の成立に影響を与えません。

背任未遂罪

1⃣ 背任罪は未遂規定(刑法250条)が適用されます(未遂の説明は前の記事参照)。

 背任罪は、背任違背行為が行われた時点で、少なくとも背任未遂罪が成立します。

 そして、上記の

  1. 任務違背行為によって本人に財産上の損害を負わせた時点
  2. 背任行為が本人に経済的損害を与えるものであるときは、任務違背行為が終了した時点

 まで至った場合に、背任罪が既遂として成立します。

2⃣ 背任未遂罪は、

  1. 任務違背行為に着手したものの、その完了に至らなかった場合(着手未遂)
  2. 任務違反行為は完了したが、財産上の損害を加えるに至らなかった場合(実行未遂)

とがあります。

 また、任務違背行為と損害との間に因果関係が欠けた場合は、背任未遂罪となります。

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