道路交通法違反

無免許運転(17)~「教唆犯と道路交通法違反(無免許運転)」を説明

 前回の記事の続きです。

教唆犯と道路交通法違反(無免許運転)

 教唆犯(刑法61条1項)は、人をそそのかして犯罪を実行させた場合に成立します。

※ 教唆犯の詳しい説明は前の記事参照

 その教唆行為は、明示的であると黙示的であるとを問いません。

 道路交通法違反(無免許運転)において、教唆犯の成立を認めた以下の裁判例がります。

高松高裁判決(昭和30年1月28日)

 裁判所は、

  • 運転免許を有しない者に対し、その情を知りながら自動車の運転を勧め、道路で運転させれば、その者の運転技術の程度、運転区間の道路の状態等にかかわりなく無免許運転の教唆犯が成立する

とし、道路交通法違反教唆(無免許運転)が成立するとしました。

名古屋高裁判決(昭和31年10月18日)

 被教唆者が無免許であることを知りながら肉類の運搬を依頼した事案について、運搬の依頼は、無免許運転をするに至った縁由にすぎず、教唆犯ではないと被告人側が主張した事案です。

 裁判所は、

  • 肉類の運搬を依頼すれば、必ずやその自家用自動三輪車を無免許運転してそれを運搬してくれるであろうことを予測していたものであり、一方、被教唆者も、被告人らから肉類を運搬してくれとの依頼があったればこそ前記三輪車を無免許運転したもので、かつ、これを使用することを予定して前記依頼を受けたものであるというのであるから、本件の場合、前記自動三輪車の無免許運転と肉類の運搬とは密接不可分の関係にあり、前者を離れては後者はなく、また後者があれば必然的に前者が随伴したもので、かつ、このことは、被教唆者はもちろん、被告人らも充分承知していたものであることは明白であり、無免許運転の教唆犯が成立する

とし、道路交通法違反教唆(無免許運転)が成立するとしました。

道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、道交法75条1項1号)と道路交通法違反教唆(無免許運転)との関係

1⃣ 道交法75条1項1号は、自動車の使用者等(例えば、運送会社の社長)が無免許運転を下命・容認することを禁止する規定です。

 被下命者(例えば、運送会社の従業員)が、自動車の使用者等の下命を受けて犯意を生じ、無免許運転をした場合、その下命をした自動車の使用者等に対し、

  • 道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、道交法75条1項1号)と道路交通法違反(無免許運転)の教唆犯

が成立し、両違反は観念的競合の関係となります(最高裁決定 昭和46年9月28日)。

2⃣ ただし、被下命者が下命されたが、その時、既に無免許運転の犯意を生じていれば、自動車の使用者等には、教唆犯ではなく、

  • 道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、75条1項1号)と道路交通法違反(無免許運転)の幇助犯

が成立し、両違反は観念的競合の関係となります。

 幇助犯(刑法62条1項)は、正犯(犯罪の実行者)の犯行を手助けした場合に成立します。

 被下命者が、下命者から下命された時に既に無免許運転の犯意を生じていた場合(下命されずとも無免許運転をしようと思っていた場合)は、下命者は被下命者の無免許の犯意を促進した(精神的な援助をした)ことになるため、幇助犯が成立するものです。

※ 幇助犯の詳しい説明は前の記事参照

3⃣ なお、被下命者が、下命を受けたが無免許運転をやらなかった場合は、

  • 道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、75条1項1号)のみ

が成立します。

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