前回の記事の続きです。
道路交通法違反(無免許運転)の共同正犯(刑法65条1項の身分犯との関係)
刑法65条1項は、身分犯の共犯の規定であり、
- 犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても共犯とする
と規定しています。
まず、身分犯について説明します
身分犯とは、犯人に一定の身分がなければ、犯罪が成立しない犯罪をいいます。
たとえば、道路交通法違反(無免許運転)は、犯人に「無免許」という身分がなければ、犯罪が成立しない身分犯です。
ここで問題になるのは、無免許の身分のない者(運転免許を持っている者)が、無免許の犯人と共謀して、道路交通法違反(無免許運転)を実行した場合、無免許の身分のない者も、道路交通法違反(無免許運転)の共同正犯(共犯)で処罰できるか?という点です。
結論として、身分のない者でも、身分のある犯人と共謀して身分犯たる犯罪を犯せば、共同正犯(共犯)として、身分のある犯人と全く同じく処罰されます。
先ほどの道路交通法違反(無免許運転)の例で考えると、無免許の身分のない者(運転免許を持っている者)が、無免許の犯人と共謀して道路交通法違反(無免許運転)を行った場合、無免許の身分のない者も、無免許の犯人と同等に、道路交通法違反(無免許運転)で処罰されることになります。
これは、刑法65条に、『犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする』と規定されているためです。
道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、道交法75条1項1号)と身分犯との関係
道交法75条1項1号は、自動車の使用者等(例えば、運送会社の社長)が無免許運転を下命・容認することを禁止する規定です。
被下命者(例えば、運送会社の従業員)が、自動車の使用者等の下命を受け、無免許運転をした場合、自動車の使用者等(例えば、運送会社の社長)に対し、
- 道路交通法違反(自動車の使用者等の義務違反、道交法75条1項1号)
と
が成立します(詳しい説明は、無免許運転(17)の記事参照)。
ここで、
- 道交法75条1項1号に規定する自動車の使用者等(例えば、運送会社の社長)
と、
- 自動車の使用者等の義務違反の身分を有しないA(例えば、運送会社の秘書)
とが共同し、被下命者(例えば、運送会社の従業員)に対し、無免許運転等を下命した場合にAの罪責が問題になります。
もともとAは無免許運転の教唆あるいは幇助については身分を有しますが、道交法75条1項1号の自動車の使用者等の義務違反については身分を有しません。
しかし、そのAは、刑法65条1項の規定によりその身分を取得することになり自動車の使用者等と全く同一の法の適用を受けることになり、Aに対しても道交法75条1項1号の自動車の使用者等の義務違反が、自動車の使用者等との共同正犯(共犯)として成立します。