前回の記事の続きです。
間接正犯とは?
間接正犯は、人を道具として使って犯罪を実行することをいいます。
たとえば、善悪の判断ができない子供に「あのコンビニからチョコレートをとってきて」と言って、子どもを使って万引きをすれば、窃盗罪の間接正犯となります。
犯人自身は、直接手を下して万引きはしていません。
しかし、間接正犯という考え方があることで、犯人を、万引きを間接的に実行した犯人として処罰できるのです。
※ 間接正犯の詳しい説明は間接正犯とは?の記事参照
道路交通法違反(無免許運転)における間接正犯
刑事未成年者(14歳に満たない少年)に対しては犯罪は成立しません。
そこで、刑事未成年者に無免許運転をさせた場合に、無免許運転をさせた者に対して道路交通法(無免許運転)の間接正犯が成立するかどうかという問題があります。
この点、裁判例は、道路交通法(無免許運転)の間接正犯は成立しないとしています。
岡山簡裁判決(昭和44年3月25日)
被告人は自転車販売業者であるが、客のAから原動機付自転車を買いたいとの申込を受け、Aが原付免許しかもっていないことを知っていながら、手持ち商品であったエンジンの総排気量55ccの中古自動一輪車をA方に持参し、Aに対し、これは総排気量50ccの原動機付自転車であると偽って売り渡し、Aは、誤信して、その後約半年間この車両を乗りまわした事案です。
検察官は、被告人を自動二輪車の無免許運転の間接正犯として起訴しました。
裁判官は、
- 「間接正犯」とは、他人を道具に使って自己の犯罪を実行することをいうものであるところ、自動車等の運転については、道路における危険防止と交通の安全および円滑を図るため、公安委員会の運転免許を受けなければならないが、これは右の危険等を伴う車両の運転行為の特質上、車両の種類に応じた運転免許の有無を基準として、それに応じた免許を有しない者が、当該車両を運転したときは、その運転行為を直接に実行した者自体の直接正犯行為として評価され、他人を道具として利用する間接正犯の形態においては犯されないものと解するを相当とする
と判示し、道路交通法(無免許運転)の間接正犯は成立しないとしました。
学説
1⃣ 道路交通法(無免許運転)の間接正犯は成立しないとする学説として、
- 運転免許を持つものが刑事未成年者に無免許運転をさせたとしても、その者が運転免許をもっているので、どのような意味においても自己の犯罪として無免許運転行為を行い得ないので、正犯者となり得ない者は、間接正犯者となり得ないという結論になる
- また、運転免許のない者が刑事未成年者に無免許運転をさせたとしても、車の運転行為の特質上、それは、自ずからにおいて行われることを要し(自手犯)、他人を利用した行為は、すでに、使用された者自体の運転としてのみ評価され、運転行為について人を道具として使用するということは、普通のケースでは考えられないので、それは直接正犯者となり得る者自身によって犯されるのみで、人を道具とする間接正犯の成立する余地はない
と解するものがあります。
2⃣ 是非善悪の弁別のある刑事未成年者の場合には、道路交通法(無免許運転)の幇助犯が成立するとする学説として、
- 運転免許を有する者が刑事未成年者の無免許運転を指導した場合、共犯の従属性については本犯の行為が違法であれば足り責任は必要としないのであるから、是非善悪の弁別のある刑事未成年者の場合には、幇助犯が成立すると解する
とするものがあります。