前回の記事の続きです。
道路交通法違反(無免許運転)の補強証拠の考え方
刑事裁判において、検察官が犯罪事実を証明するためには、自白のほかに、その自白を証明する証拠(補強証拠)が必要とされています(憲法38条3項、刑訴法319条2項)。
そのため、裁判官が自白によっていかに合理的疑いを超える程度の確信を抱いたとしても、自白だけで被告人を有罪にすることはできません。
道路交通法違反(無免許運転)においても、「無免許運転をした」という自白のみでは有罪とされず、その自白を証明する証拠(補強証拠)が必要になります。
つまり、道路交通法違反(無免許運転)が成立するためには、被疑者が自分は無免許で自動車を運転したという申立てのほかに、その無免許であることを補強する何らかの証拠が必要となります。
この点に関する判例・裁判例として、以下のものがあります。
裁判所は、
- 無免許運転の罪においては、運転行為のみならず、運転免許を受けていなかったという事実についても、被告人の自白のほかに、補強証拠の存在することを要するものといわなければならない
- そうすると、原判決が、前記のように、無免許の点については、被告人の自白のみで認定しても差支えないとしたのは、刑訴法第319条2項の解釈をあやまったものといわざるをえない
- 本件においては第一審判決が証拠として掲げたA司法巡査に対する供述調書に、Aが、被告人と同じ職場の同僚として、被告人が運転免許を受けていなかった事実を知っていたと思われる趣旨の供述が記載されており、この供述は、被告人の公判廷における自白を補強するに足りるものと認められる
と判示しました。
名古屋高裁金沢支部(昭和43年4月11日)
裁判所は、
- 警察官が運転免許証の提示を求め、運転者より正当な免許証の提示がないのに、その運転が免許証不携帯か無免許によるものと推察され、自白事件の場合は運転者からその旨の申述を得て無免許運転であると現認する経過をたどると推測され、場合によっては、それ以上詳しい反面捜査を経てその無免許を現認している場合もありうるというべきである
- そうだとすれば、現認報告書中の無免許を現認した旨の記載は、単なる自白を移記したものではなく、免許証不携帯の事実等を併せ考えた上での判断に基づいてなされたものであるから、かかる経過による現認は犯人の自白を補強しうるものと思慮され、本件の現認報告書も、特段の反証なき限り右の経過により作成されたものと推認されるので自白の補強証拠となりうる
と判示しました。
東京高裁判決(昭和47年5月4日)
裁判所は、
- 無免許運転の現行犯人逮捕手続書は、被告人の運転行為及びその際被告人が免許証を持っていなかったという点については、補強証拠となりうるが、免許証を持っていなかったというだけでは、免許証不携帯との区別がつかないこととなるので、これだけでは運転免許を受けていなかったという点についての補強証拠としては不十分である
と判示しました。
広島高裁判決(平成3年3月8日)
裁判所は、
- 無免許運転の罪を認定するにあたっては、被告人の自白がある場合であっても、被告人が運転免許を受けていなかった点だけでなく、被告人が当該日時にその自動車を運転したという点についても補強証拠を必要とし、また、有罪判決の理由としても、証拠の標目中にこれを掲げることが必要であると解されるのであるが、前示の報告書等は、いずれも被告人の運転行為の補強証拠として十分なものとは考えられない
- そうすると、原判決には、被告人の運転行為についての補強証拠が掲げられていないという点において理由不備の違法がある
と判示しました。