刑法(逃走の罪)

加重逃走罪(1)~「加重逃走罪とは?」「主体(犯人)」を説明

 これから8回にわたり、加重逃走罪(刑法98条)を説明します。

加重逃走罪とは?

 加重逃走罪は、刑法98条において、

前条(刑法97条)に規定する者(法令により拘禁された者)が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の拘禁刑に処する

と規定されます。

 加重逃走罪は、被拘禁者が逃走する場合において、損壊、暴行、脅迫、通謀の手段を用いるといった加重事由がある場合に、単純逃走罪(刑法97条)よりも刑を加重することとしたものです。

 加重逃走罪は、単純逃走罪に比し、その手段、態様において国家の拘禁作用に対する侵害の度合が強く、違法性の程度が高いとされ、また、手段が単純逃走に比して悪質で危険防止の必要性があるとされています。

 特に、二人以上通謀して逃走する場合については、

  • 互いにしめし合わせて逃走することにより発見、逮捕を困難にする点
  • 全体に戒護が手薄になり他囚の逃走を誘発しやすい点

において、刑を加重する理由があるとされています。

未遂

 加重逃走罪は、未遂も罰せられます(刑法102条)。

真正身分犯

 加重逃走罪は、犯罪の主体が、「法令により拘禁された者」に限定されており、真正身分犯です。

結合犯

1⃣ 加重逃走罪のうち、「拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし」て逃走するものについては、拘禁場、拘束のための器具(戒具)の損壊又は暴行・脅迫の行為と逃走の行為とが結合して1個の構成要件とされている結合犯とされています。

 この点に関する裁判例があります。

東京高裁判決(昭和54年4月24日)

 裁判所は、

  • 刑法98条の加重逃走罪(二人以上通謀して逃走する場合を除く)は、拘禁場又は械具の損壊若しくは暴行・脅迫(略)の行為と逃走の行為とが結合して一個の構成要件をなしているいわゆる結合犯である

と判示しました。

2⃣ 刑法98条のうち、「二人以上通謀して逃走」する場合の加重逃走罪(通謀逃走)は、通謀自体は何ら犯罪を構成するものではないから結合犯とはいえません。

加重逃走罪における損壊、暴行・脅迫は構成要件行為である

 加重逃走罪における損壊、暴行・脅迫は構成要件の一部をなす構成要件該当行為であって、単なる刑の加重要件、加重事由ではありません。

加重逃走罪(通謀逃走)は必要的共犯である

 加重逃走罪(通謀逃走)は、必要的共犯とされています。

 必要的共犯とは、犯罪の構成要件として、複数人による共同行為が不可欠と定められている犯罪のことをいいます。

加重逃走罪の主体(犯人)

 加重逃走罪の主体(犯人)は、単純逃走罪の主体と同じです。

 単純逃走罪の主体の説明は、単純逃走罪(2)の記事参照。

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