前回の記事の続きです。
加重逃走罪の行為
加重逃走罪は、刑法98条において、
前条(刑法97条)に規定する者(法令により拘禁された者)が拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し、暴行若しくは脅迫をし、又は2人以上通謀して、逃走したときは、3月以上5年以下の拘禁刑に処する
と規定されます。
加重逃走罪の行為は、
- 「拘禁場若しくは拘束のための器具を損壊し」
- 「暴行若しくは脅迫をし」
- 「二人以上通謀して、逃走」すること
です。
この記事では、③の「二人以上通謀して、逃走」の意義を説明します。
「二人以上通謀して、逃走」とは?
「通謀」の意義
加重逃走罪が、「通謀」して逃走した場合を加重事由とし規定している趣旨は、二人以上がしめし合わせて同一機会に逃走することにより逮捕を困難にさせることにあり、また、本罪は必要的共犯であって、本罪が成立するためには二人以上の者が逃走に着手することを要すると解されることからすれば、互いに相手が逃走することの認識を有しているだけでは足りず、ともに同一の機会を利用して逃走する旨意思を連絡していることが必要であり、またこれで足りると一般的には解されます。
したがって、あらかじめ謀議することを要しないし、また、自ら準備をする必要もないとされます。
「通謀」の意義については、見解が複数あり、
- 逃走について相互に意思を連絡すること
- 逃走の時期・方法等につき意思を疏通すること
- 互いに逃走について協議が整っていること
- 相互の認識にとどまらず互いに意思を強化して一体となって犯行に及ぶこと
- 単に意思の連絡があるだけでは足りず意思を連絡する行為が必要だと解すべきこと
- 相互に合意して逃走を準備・計画すること
とする見解があります。
通謀の意義に関して言及した以下の裁判例があります。
福岡高裁宮崎支部判決(昭和24年11月28日)
勾留中の被告人が、同房者の勧めに応じ、通謀の上、逃走した事案です。
裁判所は、
- 刑法第98条にある通謀は、犯人各自が相互に逃亡する意思あることを認識し、その結果を惹起するをもって足るものと解すべきであり、従って、特に犯人間において、必ずしも、あらかじめ謀議の事実あることを要するものではない
- なお、その意思の連絡ある以上、犯人のすべてが、自らの手で直接犯罪の遂行に必要な準備工作をすることも必要としない
と判示し、「通謀」の成立を認め、加重逃走罪が成立するとしました。
「ニ人以上」通謀の意義
加重逃走罪が成立するためには、二人以上の者が通謀する必要がありますが、本罪の主体は、「法令により拘禁された者」に限られていることからして、通謀者がいずれもこの身分を有していることが必要です。
その意味で、一人だけを逃走させるための共謀は加重逃走罪における通謀とはいえません。
ニ人以上通謀して「逃走」の意義
1⃣ 「逃走」の意義については、単純逃走罪(刑法97条)と同じです(詳しくは、単純逃走罪(3)の記事参照)。
2⃣ ニ人以上通謀しての「逃走」は、
二人以上の通謀者がともに逃走に着手することが必要
と解するのが一般です。
その理由として、
- 加重逃走罪(通謀逃走)の加重理由が二人以上の者が同時に逃走することにより逃走が成功する危険が高まるところにあること
- 加重逃走罪の「二人以上」は「通謀して逃走」することにかかること
が挙げられます。
また、逃走は、同時であることは必要でないが、
少なくとも同一機会に逃走することが必要である
とされています。