前回の記事の続きです。
2人以上通謀して逃走した場合の加重逃走罪の実行の着手時期、既遂の考え方
加重逃走罪(刑法98条)の実行の着手時期、既遂時期の考え方は、
- 拘禁場等の損壊又は暴行・脅迫を手段とする加重逃走罪
- 2人以上通謀して逃走した場合の加重逃走罪
との場合で異なります。
この記事では、②の「2人以上通謀して逃走した場合の加重逃走罪」の実行の着手時期、既遂時期の考え方を説明します。
なお、「実行の着手」「既遂」の基本的な考え方の説明は前の記事で行っています。
実行の着手時期の考え方
2人以上通謀して逃走した場合の加重逃走罪(通謀逃走)については、
被拘禁者が逃走行為を開始したとき
に実行の着手が認められるとするのが通説です。
かつ、加重逃走罪(通謀逃走)の実行の着手があったというには、
2人以上の者が逃走に着手したことを要する
とするのが通説です。
加重逃走罪(通謀逃走)は、通謀自体が犯罪を構成するものでなく、また、本罪は必要的共犯とされ、その成立のためには、本罪の主体となり得る者が、同一機会にともに逃走したことが必要であるとされていることからすれば、本罪の着手があったといい得るために2人以上の者が少なくとも同一機会において逃走に着手することが必要であると解されています。
この点に関する以下の裁判例があります。
佐賀地裁判決(昭和35年6月2日)
裁判所は、
- 通謀による加重逃走罪が成立するためには通謀した二人以上の者がともに少くとも逃走に着手することが必要である
と判示しました。
既遂の考え方
加重逃走罪(通謀逃走)の既遂の成否について、通謀者のうち逃走が既遂の者と未遂の者とがいれば、既遂、未遂を各別に論ずべきであるとするのが通説です。
その理由としては、
- 加重逃走罪(通謀逃走)は必要的共犯であり、既遂時期は通謀逃走者の各人ごとに論ずべきこと
- 逃走罪は自手犯であり、関与者の相互利用関係という共同正犯にとっての本質的な契機が自手犯には存在し得ないから、各人の罪責は各別に定められなければならないこと
が挙げられます。
参考までに、これに対する反対意見として、
- 二人以上の通謀があれ逃走した者が全員でなくて、そのうちの一人であっても加重逃走罪(通謀逃走)の成立があり、全員について既遂を問うべきであるとする見解
- 加重逃走罪(通謀逃走)が必要的共犯であるというのは、被拘禁者2人以上が通謀し、かつ2人以上が逃走行為に着手しなければならないという意味と限度においてのみであって、それ以上に被拘禁者相互間はもちろん外部の者との関係で総則の共犯規定の適用を排除してしまうほどのものではなく、通謀者のうち二人以上に逃走行為の着手があれば、刑法60条により残りの全員についても着手があったことになるのであって、うち一人が既遂に達すれば、全員が既遂の責めを負うとする見解
があります。
この点に関する裁判例として以下のものがあります。
佐賀地裁判決(昭和35年6月27日)
裁判所は、
- 通謀による加重逃走罪が成立するためには通謀した2人以上の者がともに少くとも逃走に着手することが必要であり(一種の必要的共犯)、しかもその各人の行為の態様によって、それそれについて既遂、未遂が各別に成立するものと解すべきである
と判示しました。