刑法(恐喝罪)

恐喝罪(4) ~恐喝罪における脅迫行為①「恐喝罪における脅迫とは?」「害悪の告知とは?」「害悪の内容は、具体的に明示する必要はない」「告知の方法は言動以外でも、黙示でもよい」を判例で解説~

恐喝罪における「脅迫」とは?

 恐喝罪(刑法249条)における脅迫とは、

人を畏怖させるに足りる害悪の告知

をいいます。

恐喝罪における「害悪の告知」の内容

 「人を畏怖させるに足りる害悪の告知」における害悪の内容は、

一般に人を畏怖させるに足りるものであればよい

とされます。

 脅迫罪刑法222条)における「害を加える告知」は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対して」のものに限定されています。

 これに対し、恐喝罪における「害悪の告知」は、脅迫罪のような限定がないため、「一般に人を畏怖させるに足りるものであればよい」とされるのです。

判例の見解

 判例において、害悪の告知は、

一般に人を畏怖させるに足りるものであれば、恐喝罪の手段である害悪の告知に当たる

としています。

 以下で参考となる判例を紹介します。

大審院判決(大正12年6月29日)

 この判例は、害悪の内容は、人を畏怖させるに足りるものであれば十分であるから、急迫強度の攻撃であることまで必要としないとしました。

 裁判官は、

  • 恐喝罪を構成すべき害悪の告知は、人をして畏怖の念を生ぜしむるものなるをもって足れりとし、急迫強度の攻撃を内容とすることを要せず

と判示しました。

大審院判決(大正5年6月16日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝罪を構成すべき害悪の通知は、必ずしも生命身体自由名誉又は財産に対するものなることを要せず
  • 苟くも人をして畏怖又は嫌忌の念を生ぜしめ、よってもって意思の実行を制限するものなるをもって足ること刑法第249条に何らその害悪の通告に制限を付したる趣旨の見るべきものなきに徴し明らかなりとす
  • 而して蓄妾の事実を摘発すべき通告の如きは、名誉に対する害悪の通告なることもちろんなるのみならず、仮に然らずとするも、自己の秘密を摘発せられために、一家の平和を攪乱せられるるの、人の畏怖又は嫌忌する所なれば、家族に秘したる事実を摘発すべしとの通告は、恐喝罪を構成すべきものたること論を竣たず

と判示して、名誉毀損に当たらない場合でも、私人の秘密を摘発するとの通告は、恐喝罪における害悪の告知に当たるとしました。

大審院判決(明治45年3月14日)

 私人の秘密や不利益に関する記事掲載の告知について、裁判官は、

  • すべて秘密に関する事項を摘発することは、あまねく人の嫌忌する所なるにより、苟も財物の交付を受ける目的をもって、新聞紙上に人の秘密に関する事項を掲載すべき旨を通告するにおいては、通告をなすに当たり、その秘密に関する事項を指示したると否とにかかわらず、恐喝罪を構成す

判示し、秘密事項を指示すると否とにかかわらず、害悪の告知に当たるとしました。

大審院判決(大正3年6月24日)

 人の不利益に関する記事を新聞紙上に掲載することを告知する行為について、裁判官は、

  • 人に不利益なる事項を新聞紙上に掲載すべき旨を通告するときは、その通告自体において、これを畏怖せしむるに足るべく、事項の内容を示したると否とは犯罪の成立を左右するものにあらず

と判示しました。

大審院判決(大正元年11月19日)

 数人が集まって絶交する旨の通告をすることも害悪の告知に当たります。

 この判例は、数人が共謀して小作料を減額しなければ絶交する旨を通告して、小作料を減額させた事案です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 恐喝罪を構成する脅迫とは不法に害を加えることの通告をいうのであって、われわれは誰と交際しようと自由であるから、絶交の通告は不法の性質を帯びているものではなく、脅迫にはあたらない
  • もし、村中挙げて絶交をする場合は、被絶交者に相当の不利益を与えるから、不正であるといえるかもしれないが、原判決摘示によれば、単に数人が絶交を通告したに過ぎないのであるから、いまだ被絶交者に対し利益の侵害やその他の苦痛を与えたものではなく、恐喝罪を構成する脅迫とはいえない

と主張しました。

 この主張に対し、裁判官は、

  • 数人相集りて絶交の通告をなすが如きは、相手方をして、将来不利益を被ることあるべきの恐れを懐かしむるに足るべく、恐喝の手段たるを得ざるべからず
  • 而して、原判決の認むる所によれば、被告らは、現に右手段によりて不法に財産上の利益を得たるものにして恐喝罪構成の要素に欠ける所なし

と判示し、恐喝罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和2年9月20)

 この判例も、上記判例と同じく、

  • 一定地域住民団体における絶好を継続すべき旨を通告して、他人を畏怖せしめ、不法に財物を交付せしめたるときは、恐喝罪成立するものとす

と判示しました。

害悪の内容は、具体的に明示する必要はない

 害悪の内容は、具体的に明示することは必要ではありません。

 ある種の害悪の到来することを相手方に認識させればよいとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(昭和9年1月29日)

 この判例は、悪事醜行の摘発、犯罪の申告などを表明しなくても、言語挙動をもって、身体に危害を加えることあるべき気勢を示す行為も、害悪の告知に含まれるとしました。

 裁判官は、

  • 恐喝罪を構成する恐喝手段には、人の悪事醜行の摘発、又は犯罪の申告、その他これに類する害悪の通告に限らず、人の身体に危害を加うることあるべき気勢を示すが如き言動挙動をも包含するものとす

と判示しました。

大審院判決(大正12年12月15日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝罪における害悪の告知は、言語挙動により、相手方をして一定の害悪の到来すべきことを認識するに至らしむるをもって足り、必ずしも明示の告知たるを要するものにあらず

と判示しました。

大阪高裁判決(昭和25年2月7日)

 この判例は、黙示の害悪の告知による恐喝罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 恐喝罪成立要件としての害悪の通知は、必ずしも明示たることを要せず、挙動等その挙動も直接恐喝者に対する場合となると第三者に対する場合なるを問わずによる黙示の場合で足り、その挙動によって被恐喝者に害悪の来たるべきことを認識せしめるもので足りる
  • 被告人が、暴行、すなわち、いわゆる立ち廻りを演じておき(※乱闘して血が畳やふすまに散乱した殺伐した状況を作り)、これによって、被害者に、被告人の要求に応じなければ暴行を受けるべき不安、畏怖の念を懐かしめて、金円無心をなし、これを交付せしめたものであるから、恐喝罪の成立を免れない

と判示し、黙示の害悪の告知による恐喝罪の成立を認めました。

害悪の内容は、言動以外の他の事情が作用して畏怖させることができる内容であればよい

 害悪の内容は、言動それ自体が独立して相手方を畏怖させるに足りるものでなくても、恐喝者の職業など他の事情と相まって畏怖させることができる内容であればそれでよいとされます。

 この点について、以下の判例があります。

大審院判決(明治44年5月23日)

 被告人が建築工事の落札者である被害者に弁当代を出せと言ったこと自体は、独立して被害者を畏怖させるに足るものではないが、従来、落札者は入札の場所に集まった一部の者に対し、飯代として若干の出金をする悪習があり、金を出さないと後日建築工事の妨害をされるであろうことを被害者が恐れていることを被告人は知っていて、これに乗じて、被告人が被害者に弁当代を出せと迫った事案です。

 まず、被告人の弁護人は、

  • 被害者は被告人が何らかの行為をする以前に既に畏怖の念を抱いていたのであるから、被告人が脅迫して畏怖させたとの因果関係がない

と主張しました。

 この主張に対して、裁判官は、

  • 恐喝の手段として用いられたるある行為にして、それ自体のみ独立しては、普通相手方を畏怖せしむるに足らずとするも、苟くも、その行為が他の事情と相まって人を畏怖せしむるの結果を生ぜしむべきものなるにおいては、これをもって恐喝の行為なりということを妨げず

と判示して、上記の事情と相まって被害者を畏怖させるに足るものであれば、害悪の告知といえるとし、恐喝罪の成立を認めました。

福岡高裁判決(昭和31年3月19日)

 この判例で、裁判官は、

  • 恐喝の手段として用いられた言動自体は、独立して相手方を畏怖せしむるに足らないとしても、他の事情と相まって、相手方をして畏怖又は困惑の念を生ぜしめ、その結果、相手方をしてその意思に反し金品を交付するに至らしめた場合は、恐喝罪の成立を認むるを相当とする
  • 本件に付これをみるに、被告人の右被害者に対する言葉自体は、所論の通り独立して相手方を畏怖せしむるに足るものではないが、被告人はいわゆる街の不良であって、しばしば被害者宅近傍貸席業から金品を強要するなど迷惑をかけていることを被害者において熟知している上、被害者自身、被告人から何らのいわれがないのに、本件前3回にわたり、あるいは酒代、あるいは焼酎の強要を受け、その都度、営業の妨害を受けるととを慮り、要求に応じて来た経験を有するところから、本件の場合、被告人は言葉こそ前述の通り激越ではなかったが、被害者の断るのにも耳をかさず、約30分間帳場に頑張りつづけ、執拗に焼酎の要求を繰返すので、この上被告人の要求に応じないときは営業の妨害を受けることあるべきを恐れ、心ならずも焼酎4合瓶1本を交付したものであること明である
  • そうだとすれば、冒頭説示の理由により恐喝罪の成立すること明瞭というべきである

と判示して、恐喝罪の成立を認めました。

大審院判決(昭和12年3月3日)

 この判例は、新聞雑誌業者という職業と言辞が相まって害悪の告知となるとし、恐喝罪の成立を認めました。

 裁判官は、

  • 興信所または新聞業者が、銀行、会社等の関係者に対し、諸種の口実の下に金員の交付方を要求する行為が独立して関係者を畏怖せしむるに足らざる場合においても、右職業を背景とするときは、両者相まって、銀行、会社の信用業務等を害するに至るが如き畏怖の念を生ぜしむるに足るものなるをもって、恐喝行為なりというを妨げず

と判示しました。

告知の方法は黙示でもよい

 告知の方法は明示的又は積極的言動によって行われることを必要とせず、暗黙の告知でもよいとされます。

 すなわち、自己の性行、経歴、地位、風評、不法の勢威などを利用して、そのことを知悉している者に対して、害悪を暗示して畏怖させても恐喝罪が成立します。

大審院判決(昭和8年9月2日)

 裁判官は、

  • 被告人、不良団の親分たる身分に伴う不法の勢威を利用して、その身分を知悉するAに対し、金員の交付を要求したること自明にして、叙上の手段によりAをしてもし被告人の求めに応じざるにおいては、自己の業務にいかなる妨害を加えらるるやも計られずとの危惧の念を抱かしめたるは、すなわち不法の害悪を暗示じたるものにほかならざれば、よって金員を交付せしめたること右判示のごとくなる以上、恐喝罪成立することもちろんなる

と判示し、暴力団の親分であるととを知悉している被害者に対し害悪を暗示したものであるとして恐喝罪が成立するとしました。

最高裁判決(昭和24年9月29日)

 裁判官は、

  • 刑法249条1項の恐喝の罪は、害悪の及ぶべきことを通知して相手方を畏怖させることにより財物を交付させる犯罪ではあるが、その害悪の告知は、必らずしも明示の言動を要するものではなく、自己の経歴、性行及び職業上の不法な勢威等を利用して財物を要求し、相手方をして、もしその要求を容れないときは、不当な不利益を醸されるの危険があるとの危惧の念を抱かしめるような暗黙の告知を以て足りるものであるから、これによって財物を交付せしめるときは恐喝取財罪を構成するものと認むべきである
  • 被告人は、C、D及びEに対しても、被告人の粗暴の性行経歴を同人等がかねて知悉しているのを利用して金員の交付を要求したのは、同人等が被告人の要求に応じなければいかなることをされるか分からないとの畏怖心を同人等に起させるに足る暗黙の害悪の告知をしたものであり、これによって同人らをして畏怖心を起さしめ、財物を交付せしめた

と判示し、黙示の告知による恐喝罪の成立を認めました。

最高裁判決(昭和26年4月12日)

 裁判官は、

  • 恐喝取財罪の成立するためには、相手方に対する害悪の告知として必ずしも明示の言動を必要とするものではなく、自己の経歴性行及び職業上の不法な威勢等を利用して財物の交付を要求し、相手方をして、もしその要求を容れないときは不当な不利益を醸される危険があるとの危惧の念を抱かしめるような暗黙の告知をなせば足るものといわなければならない
  • 被告人は、Bに対し、不良連中の集団であるC一家を背景とする威力を示し、暗に金員の交付を求めて同人を脅し同人を畏怖させて現金一万円を交付させた

と判示し、黙示の告知による恐喝罪の成立を認めました。

次の記事

恐喝罪(1)~(23)の記事まとめ一覧

恐喝罪(1)~(23)の記事まとめ一覧