これから複数回にわたって、傷害致死罪(刑法205条)における違法性阻却について説明します。
違法性阻却事由とは?
犯罪は
- 構成要件該当性
- 違法性
- 有責性
の3つの要件がそろったときに成立します。
犯罪行為の疑いがある行為をしても、その行為に違法性がなければ犯罪は成立しません。
この違法性がない事由、つまり違法性がないが故に犯罪が成立しないとする事由を「違法性阻却事由」といいます。
違法性が阻却される主な行為として、
が挙げられます。
(この点については、前の記事で詳しく説明しています)
傷害致死罪における違法性阻却事由
傷害致死罪について、違法性の阻却が問題となる場合が多い主なものに、
- 私的領域(家族内トラブル)における行為
- 懲戒権行使(監督者による罰)
- 被害者の承諾
- 治療行為
- 正当防衛
- 緊急避難
が挙げられます。
行為が適法であるため、違法性が阻却されるか否かは、具体的場合に応じ、違法性阻却の一般原則に従って、社会的相当性を有するか否かの見地から判断されます。
私的領域における行為(家族内トラブル)の違法性阻却
今回の記事では、違法性阻却事由となる「私的領域(家族内トラブル)における行為」について説明します。
「法は家庭に入らず」の法諺にあるように、法は、極く私的な領域には立ち入らないことになっています。
なので、家庭内における軽微な暴行・傷害事案の場合は、法が介入しないこともあります。
しかし、傷害致死の場合は、死亡という重大な結果を生じているため、法が介入しないということはあり得ないでしょう。
そして、傷害致死行為が、「私的領域における行為」として、その違法性が阻却され、無罪が言い渡されることもないでしょう。
傷害致死罪において、私的領域(家族内トラブル)における行為の違法性の有無が問題となった判例を紹介します。
夫婦喧嘩の末、夫の暴行により妻がショック死した事案において、裁判官は、
- 被告人の所為は、たとえ被害者が被告人の妻であっても、その意思に反する重大なものであること明らかで違法である
と判示しました。
広島高裁岡山支部判決(昭和40年10月9日)
妻の後頭部を殴打して死亡させた行為について、裁判官は、
と判示し違法性を認め、傷害致死罪が成立するとしました。
次回記事に続く
次回の記事では、「懲戒権の行使(監督者による罰)」に関する違法性阻却について説明します。