刑法(強盗・強制性交等罪)

強盗・強制性交等罪(1) ~「強盗・強制性交等及び同致死罪とは?」「『強制性交等』とは、膣性交・肛門性交・口腔性交を指す」「強盗と強制性交の前後は問わない」を判例で解説~

 これから数回にわたり強盗・強制性交等及び同致死罪(刑法241条)について解説します。

強盗・強制性交等及び同致死罪とは?

 強盗・強制性交等及び同致死罪の罪名を整理すると、

  • 強盗・強制性交等罪
  • 強盗・強制性交等致死罪
  • 強盗・強制性交等殺人

の3つになります。

強盗・強制性交等罪

 強盗・強制性交等罪は、

強盗犯が、強制性交等をした場合に成立する犯罪

です。

 強盗・強制性交等罪は、強盗犯が、強制性交等をした際に、被害者を傷害を負わせた場合も構成要件に含んでいます。

 なので、強盗犯が、強制性交等をした際に、被害者を傷害を負わせた場合でも、「強盗・強制性交等罪」の罪名となります。

 なお、「強盗・強制性交等致死傷」という罪名は存在しません。

強盗・強制性交等致死罪、強盗・強制性交等殺人罪

 強盗・強制性交等致死罪、強盗・強制性交等殺人罪は、

強盗犯が、強制性交等をしたことによって、被害者を死亡させた場合に成立する犯罪

です。

 より詳しく説明すると、本罪は、

強盗の罪と強制性交等の罪とが同一の機会に犯された場合において、強盗の行為又は強制性交等の行為のいずれかの罪に当たる行為から死の結果が生じた場合

に成立します。

 この死の結果は、殺意なく人を死亡させた場合のみならず、殺意をもって人を殺した場合も含みます。

 つまり、

  1. 傷害の故意で結果的に被害者を死に至らしめた場合(傷害致死の場合)
  2. 殺人の故意をもって被害者を殺害した場合(殺人の場合)

の両方を含みます。

 ①の傷害致死の場合の罪名が、「強盗・強制性交等致死罪」となります。

 ②の殺人の場合の罪名が、「強盗・強制性交等殺人罪」となります。

 死の結果を生じさせる行為には、強盗行為、若しくは強制性交等の行為自体、又はそれらの手段となった暴行・脅迫の行為のほか、これに随伴する行為も含まれます。

『強制性交等』とは、膣性交・肛門性交・口腔性交を指す

 『強制性交等』とは、暴行または脅迫による膣性交肛門性交口腔性交をことをいいます。

強盗・強制性交等及び同致死罪を認めるに当たり、強盗と強制性交の前後は問わない

 強盗・強制性交等及び同致死罪を認めるに当たり、強盗と強制性交等の前後は問いません。

 つまり、「強盗が先で強制性交等が後」でも、「強制性交等が先、強盗が後」のどちらであっても、強盗・強制性交等及び同致死罪の成立が認められます。

 このことは、刑法241条の1項前段と1項後段の違いを説明することによって分かります。

 まず、刑法241条の条文を示します。

  1. 強盗の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強制性交等の罪(第179条第2項の罪を除く。以下この項において同じ。)若しくはその未遂罪をも犯したとき、又は強制性交等の罪若しくはその未遂罪を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したときは、無期又は7年以上の懲役に処する。
  2. 前項の場合のうち、その犯した罪がいずれも未遂罪であるときは、人を死傷させたときを除き、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思によりいずれかの犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
  3. 第1項の罪に当たる行為により人を死亡させた者は、死刑又は無期懲役に処する。

1項前段の説明

 1項前段の部分は、

『強盗等(未遂も含む)を犯した者が強制性交等の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき』

の部分になります。

 1項前段の行為は、

『まず強盗をする→その後、強制性交等をする』

という順番での犯行を行った場合に本罪の成立を認めるものです。

 この場合の強制性交等には、刑法177条の強制性交等の罪にあたる場合のほか、 刑法178条の準強制わいせつ及び準強制性交等の罪をも含みます(後述の1項後段の規定も同様)。

 強制性交等の行為は、必ずしも暴行・脅迫の方法として行われる必要はありませんが、強盗の機会に行われる必要があります(最高裁判決 昭和24年12月24日)

 つまり、強盗の手段として用いられた暴行・脅迫によって、被害者がその反抗を抑圧されている状態を利用し、強制性交等の行為が行われたものである必要があります。

 1項の条文中の『をも犯したとき」とは、強盗と同一の機会に強制性交等の罪を犯すという意味です。

1項後段の説明

 1項後段の部分は、

『強制性交等(未遂も含む)を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき』

の部分になります。

 1項後段の行為は、

『まず強制性交等をする→その後、強盗をする』

という順番での犯行を行った場合に本罪の成立を認めるものです。

 1項後段の行為は、強制性交等と同一の機会に強盗を犯すという捉え方になります。

 この1項後段の規定は、平成29年改正による新たな犯罪構成要件です。

平成29年改正前の刑法241条

 平成29年改正前の刑法241条は、「強盗が女子を強姦したときは、無期又は7年以上の懲役に処する。よって女子を死亡させたときは、死刑又は無期懲役に処する。」と規定されていました。

 しかし、平成29年改正により刑法177条の強制性交等の規定が、「女子」という限定がなくなり、被害者の性別は問わないこととされ、処罰対象となる行為も「①性交、②肛門性交、③口腔性交」(①~③をまとめて「性交等」という)に拡大されたことに伴い、刑法241条の規定もそれに合わせ、条文の構成要件が大幅に変更されました。

 平成29年改正前の刑法241条は、1項後段の『強制性交等(未遂も含む)を犯した者が強盗の罪若しくはその未遂罪をも犯したとき(まず強制性交等をする→その後、強盗をする)』という規定が新設されことが注目されます。

 1項後段の場合も、強盗・強制性交等及び同致死罪の刑を科すとしたのは、単独でも悪質な行為である強盗行為と強制性交等の行為の双方を行った場合の悪質性や重大性を考慮すると、その先後関係で科することのできる刑に大きな差があることは不合理であるとされたためです。

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