現場助勢罪(刑法206条)について解説します(全1回)。
現場助勢罪とは?
現場助勢罪(刑法206条)は、
傷害(刑法204条)又は傷害致死(刑法205条)を生じさせる暴行が行われている際に、その場所で扇動的行為をなし、行為者の犯罪意思を強める行為を処罰するもの
です。
たとえば、路上で喧嘩が始まったところ、野次馬が集まり、喧嘩の双方を「やれ、やれ」というようにはやしたてるような場合が現場助勢罪に当たります。
現場助勢罪の性質について
- 傷害幇助、傷害致死幇助とは評価し得ない行為についての独立の処罰規定であるという見解
- 群集心理を考慮して、現場における「野次馬」である幇助行為につき、特に軽い刑を規定したものとする見解
分かれているところ、②の見解が通説とされます。
なお、現場助勢は、傷害罪及び傷害致死罪に対するものに限られ、強盗致死傷罪、強制性交等致死傷罪を助勢しても、現場助勢罪は成立しません。
現場助勢罪の行為
現場助勢罪の行為は、
犯罪が行われるに当たり現場において勢を助けること
です。
「犯罪が行われるに当たり」とは?
「犯罪が行われるに当たり」とは、
傷害又は傷害致死を惹起するような暴行が行われている際に
という意味です。
「現場」とは?
「現場」とは、その暴行が行われている場所を指します。
傷害・傷害致死の結果を生ずべき暴行が開始されてから結果発生に至るまでの場所をいいます。
「勢を助ける」とは?
「勢を助ける」とは、単に「やれ、やれ」、「倒してしまえ」というように、はやしたてるにすぎない行為をいいます。
犯罪意思を強化させる野次馬的声援であれば足り、言語によると動作による(拳を振りまわすなど)とを問いません。
傷害・傷害致死の現場における声援であっても、
- 被害者が一方的にやられている状況で、加害者に対して「もっとやれ」などと扇動する場合
- 双方が攻撃防御を繰り返す喧嘩において、特定の一方の者を加勢する場合
のように、野次馬的な「助勢」行為を超えて、特定の犯人の犯行を容易にするものであれば、それは幇助行為であり、現場助勢罪ではなく、傷害幇助罪や傷害致死幇助罪が成立し得ます(幇助犯の説明は前の記事参照)。
したがって、実際には、相互に暴行を加える喧嘩などで、どちらに加勢するわけでもなく、 また、いずれに傷害の結果が生ずるかに関心なくしてなされる扇動行為だけが、現場助勢罪の行為となります。
暴行が行われている段階にあることが必要である
現場助勢罪は、暴行を目の当たりにして、これに助勢するという行為を取り上げる趣旨です。
なので、現場助勢罪の成立を認めるにあたり、暴行が行われているといい得る段階にあることが必要となります。
暴行により傷害又は傷害致死の結果が発生したことが必要である
現場助勢罪は、傷害又は傷害致死の犯罪が行われていることを要します。
なので、現場助勢罪の成立を認めるにあたり、暴行により傷害又は傷害致死の結果が発生したことが必要となります。
したがって、暴行の段階において助勢したが、傷害又は傷害致死の結果が生じなかったときは、現場助勢罪は成立しません。
傷害罪の共同正犯が成立する場合は、現場助勢罪は成立しない
助勢者自らが人を傷害すれば、傷害罪の共同正犯又は同時犯が成立し、助勢行為はその罪に吸収されます。
最高裁判決(昭和23年6月12日)において、傷害罪の共同正犯が成立する場合は、現場助勢罪は成立しないことを判示しています。