駐車・停車中の車両の横を車で進行する際の注意義務
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条)における「自動車の運転上必要な注意」とは、
自動車運転者が、自動車の各種装置を操作し、そのコントロール下において自動車を動かす上で必要とされる注意義務
を意味します。
(注意義務の考え方は、業務上過失致死傷罪と同じであり、前の記事参照)
その注意義務の具体的内容は、個別具体的な事案に即して認定されることになります。
今回は、駐車・停車中の車両の横を車で進行する際の注意義務について説明します。
注意義務の内容
駐車、停車中のバス、電車などの横を通過する場合は、その後方の陰などから人が進出したり、飛び出すことが予見できるので、これとの衝突を避けることが義務付けられます(最高裁決定 昭和45年7月28日)
このような場合に衝突すれば、過失ありとされるのが通常です。
事例
① バス停に停車して客扱い中のバスの横を通過する場合
被告人に過失ありとされた事例
バス停に停車して客扱い中のバスの横を通過する際の事故について、過失ありとされた事例として、以下のものがあります。
① 右側バス停に停車して客扱い中のバスの横を通過しようとしたところ、バスから降りた客がバス後方から飛び出して来て衝突した事例(最高裁決定 昭和45年7月28日)
② 右側のバス営業所前に停車中のバスと、これに接近して来るバスの横を通過しようとしたところ、2台のバスの中間から出て来た者と衝突した事例(福島地裁判決 昭和35年3月18日)
被告人に過失なしとされた事例
停留所に停車中のバスの横を通過する場合であっても、バスを降りる客の進出、飛び出しが予見できない事情がある場合は、被告人に過失なしとされる場合があります。
① バスがバス停に停車して客扱い中であっても、車両交通頻繁でバスから降りた降が横断歩道を渡ることが期待できる場合は、被告人に過失はないとしました(名古屋高裁判決 昭和37年2月12日)
② 市電が停留所で客扱い中であっても、被告車が青色信号に従って進行し、その横を通過する場合は、被告人に過失はないとしました(大阪高裁判決 昭和42年10月7日)
③ ラッシュ時で停留所安全地帯から少し離れた箇所に多数の者が佇立して待っているのに、被害者一人が急に進出し、被告車と衝突した事案で、被告人に過失はないとしました(京都地裁判決 昭和39年1月30日)
② 停車して客扱い中のタクシーの横を通過する場合
客扱い中のタクシーの横を通過する場合についても、バスの横を通過する場合と同様です。
被告人に過失ありとされた事例
右側に停車中のタクシー(被告人は、運転者が車中で休憩するためと認識)から下車し、体をふらつかせてその背後から出て来た酔客と衝突した事案で、被告人に過失ありとしました(仙台高裁判決 昭和44年2月6日)
被告人に過失なしとされた事例
右側に停車中のタクシー後方から走り出した幼児と衝突した事案で、被害者は父親に連れられていて、父親が佇立しているのを被告人は現認しており、幼児の飛び出しについて予測できないことを理由に、被告人に過失なしとしました(東京高裁判決 昭和44年12月17日)
③ バス・タクシー以外の駐・停車車両の横を通過する場合
停留所に停車中のバス、道路に停車中のタクシー以外の車両の横を通過する場合の事故について、車両の陰からの進出、飛び出しが予見可能かは、現場の状況等具体的な事情によって判断されることとなります。
被告人に過失ありとされた事例
予見可能性ありとして過失が肯定された事例として、以下のものがあります。
① 人家が多く、車の往来頻繁な道路において、停車中の自動車の陰から被害者が飛び出し、被告車と衝突した事例(名古屋高裁判決 昭和35年11月7日)
② 車の交通が閑散でなく、人家が続き、食料品等販売の商店がある場所で、幼児がその商店からいったん出て路地に行った後、その商店にいる母親のところへ戻ろうとして、普通貨物自動車の陰から飛び出し、被告車と衝突した事例(大阪高裁判決 昭和50年7月16日)
被告人に過失なしとされた事例
過失なしとされた事例として、以下のものがあります。
① 雨中の昼間、右側ホテル案内所前に駐車中のマイクロバスの横を通過する際、それ以前に横断者はなく、そのマイクロバスには運転者のみが乗車して、バス周辺に佇立者、横断者もなかった状況下で、案内所から出て来た者が、マイクロバスの後方から走り出し、被告車と衝突した事案です。
被害者が横断することについて予見可能性を否定し、被告人に過失なしとしました(新宮簡裁判決 昭和42年10月14日)
② 交通の極めて頻繁な広い通りと見通しの悪い小路とが交わる丁字路交差点で、被告車が広い通りを進行中、左側に駐車中の小型四輪車の陰から幼児が飛び出し、衝突した事案です。
飛び出しについて予見できないとし、被告人に過失なしとしました(大阪高裁判決 昭和37年9月13日)
③ 被告車が、右側人家前に停車中の貨物自動車の横を通過しようとしたところ、その貨物自動車を使用中の者の子供である幼児が、その人家(幼児の祖父の家)から飛び出し、衝突した事案です。
2回警音器を吹鳴し、時速を10キロメートルに減速している被告人は、飛び出しについて予測できないとし、被告人に過失なしとしました。
業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪、過失運転致死傷罪の記事まとめ一覧