行為(公務員に対し、暴行・脅迫を加えること)
職務強要罪・辞職強要罪(刑法95条2項)の行為は、
公務員に対し、暴行又は脅迫を加えること
です。
ここでいう暴行・脅迫の意義は、公務執行妨害罪(刑法95条1項)と同じです(詳しくは前の記事参照→暴行の記事、脅迫の記事)。
公務員を脅迫する場合の害悪の告知は、害悪が現在かつ急迫のものであることを要しない
公務員を脅迫する場合の害悪の告知は、害悪が現在かつ急迫のものであることを要します。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正3年10月5日)
この判決で、裁判官は、
- 公務員をしてその職を辞せしむるため、その財産に対し、害悪を加えることを不法に通告したる以上は、その害悪の現在かつ急迫のものなると否とにかかわらず、刑法95条2項の脅迫罪(辞職強要罪)は完全に成立するものとす
と判示しました。
暴行・脅迫以外の手段による職務強要罪・辞職強要罪は成立しない
職務強要罪・辞職強要罪の手段は、暴行・脅迫に限られます。
なので、例えば、公務員に対し、ある処分をさせ又はさせないため贈賄しても、職務強要罪は成立しません。
また、暴行・脅迫以外の方法で辞職勧告を行っても、辞職強要罪は成立しません。
故意
職務強要罪・辞職強要罪の成立を認めるに当たり、暴行・脅迫の相手が公務員であることの認識が必要となります。
その上で、公務員に対し、ある処分をさせ若しくはさせない目的又は辞職させる目的を必要とします(目的を必要とすることについての詳細は、前の記事参照)。
罪数(暴行・脅迫した公務員の数に応じて本罪が成立する)
暴行・脅迫した公務員の数に応じて職務強要罪・辞職強要罪が成立します。
以下が参考判例です。
ある処分をさせる目的で、複数の公務員に対して同時に脅迫を加えた場合、各公務員別に職務強要罪が成立し、各罪の関係は観念的競合になるとしました。
職務強要罪・辞職強要罪は、一人一人の公務員の職務上の地位の安全をも保障しようとするものであるから、各公務員別に本罪が成立するという考え方になります。
刑法95条1項の公務執行妨害罪は、公務員の数ではなく、公務の数が罪数判断の基準になりますが(詳しくは前の記事参照)、刑法95条2項の職務強要罪・辞職強要罪は、公務員の数が罪数判断の基準になるという違いがあります。
他罪との関係
① 刑法95条1項の公務執行妨害罪と刑法95条2項の職務強要罪・辞職強要罪の関係
公務員が現にAという職務を実行している際に、犯人が、その公務員に対し、Bという処分をさせ若しくはさせないため又はその職を辞させるために暴行・脅迫を加えたときは、1項の公務執行妨害罪のみが成立し、2項の職務強要罪・辞職強要罪は成立しません。
② 暴行罪・脅迫罪との関係
職務強要、辞職強要の手段として行われた暴行・脅迫は、職務強要罪・辞職強要罪に吸収され、暴行罪・脅迫罪として独立して成立することはありません。
③ 強要罪との関係
職務強要罪・辞職強要罪は、所定の目的で暴行・脅迫を加えれば既遂に達しますが、強要罪の特殊な場合とも見られるので、強要罪も職務強要罪・辞職強要罪に吸収され、暴行罪・脅迫罪と同様に、独立して成立することはありません。
④ 暴力行為等処罰に関する法律1条1項の罪との関係
職務強要、辞職強要の手段として行われた暴行行為等処罰に関する法律1条1項(共同暴行の罪、共同脅迫の罪)の罪は、職務強要罪・辞職強要罪に吸収され、独立して成立することはありません。
以下が参考判例です。
大審院判決(昭和8年7月27日)
数人共同して、町長に対し、辞職させるため暴行・脅迫を加えた事案で、辞職強要罪のみが成立し、暴行行為等処罰に関する法律1条1項の罪は、辞職強要罪に吸収され成立しないとしました。