刑法(現住建造物等放火)

現住建造物等放火罪(1) ~「現住建造物等放火罪とは?」 「犯人の家族や同居人が居住する建物に放火すれば、現住建造物等放火罪が成立する」などを説明~

 これから複数回にわたり、現住建造物等放火罪(刑法108条)の説明をします。

現住建造物等放火罪とは?

 現住建造物等放火罪は

放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損させる罪

です(刑法108条)。

 現住建造物等放火罪の客体は、

現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑

です。

 現住建造物等放火罪の客体は、社会生活において重要な機能を有し、規模も比較的大きいことから、その火災は社会に多大の脅威をもたらす上、人の生命・身体に危険を生ぜしめるおそれが少なくありません。

 そのため、現住建造物等放火罪の法定刑は、

死刑又は無期若しくは5年以上の懲役又は禁錮

と重いものとなっています。

 現住建造物等放火罪は、

という罪です。

 「現に人が住居に使用し」の「人」とは?

 現住建造物等放火罪の条文(刑法108条)にある 「人」とは、

犯人以外の一切の者

をいいます。

 犯人には共犯者を含みます。

 その上、客体である建造物等の所有権が犯人に属すると犯人以外の者に属するとを問いません。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(明治42年12月6日)

 裁判官は、

  • 刑法第108条に人に住居に使用し又は人の現在する建造物とある人とは、犯人以外の者を指称し、その家屋又は建造物の所有権が犯人に属すると否とは問うところにあらず

と判示しました。

犯人の家族や同居人も「現に人が住居に使用し」の「人」に当たり、犯人の家族や同居人が居住する建物に放火すれば、現住建造物等放火罪が成立する

 犯人の家族や同居人も「現に人が住居に使用し」の「人」に当たります。

 そのため、犯人の家族や同居人する居住する建物に放火すれば、現住建造物等放火罪が成立します。

「犯人のみが単独で住居に使用し又は犯人のみが現在する建造物」を放火すれば、現住建造物等放火罪ではなく、非現住建造物等放火罪が成立する

 「現に人が住居に使用し」の「人」は、「犯人以外の一切の者」を指すことから、

犯人のみが単独で住居に使用し、又は、犯人のみが現在する建造物

は現住建造物等放火(刑法108条)の客体にはならず、非現住建造物等放火(刑法109条)の客体に当たります。

 そのため、「犯人のみが単独で住居に使用し、又は、犯人のみが現在する建造物」を放火すれば、現住建造物等放火罪ではなく、非現住建造物等放火罪が成立します。

 この点を判示した以下の判例があります。

大審院判決(昭和7年5月5日)

 裁判官は、

  • 刑法第108条は現に他人の居住に使用せられ、又は他人の現在する建造物等に放火したる場合を規定したるものなるが故に、犯人が自己の住居に使用する他人所有の建造物等に放火したるときは、同法の適用はなく、同法第109条第1項を適用すべきものとす

と判示しました。

居住者又は現在者が放火を承諾した場合、現住建造物等放火罪ではなく、非現住建造物等放火罪に準じて処罰される

 居住者又は現在者が放火を承諾した場合でも、現住建造物等放火罪が公共危険罪であることから、違法性は阻却されませんが、もはや居住者や現在者の身体等の危険を考慮する必要がないため、処罰規定が変更され、非現住建造物等放火罪に準じて処罰すべきとするのが通説です。

「現に人がいる」とは?

 現住建造物等放火罪の条文(刑法108条)にある 「現に人がいる」の「人」とは、

犯人以外の者

を意味します。

 「現に人がいる」とは、

犯人以外の者が、放火当時に建造物内に存在すること

いいます。

 建造物の一部に現に人がいれば、これと一体をなす建造物全体が現に人がいる建造物となります。

 「現に人がいる」とは、放火当時に建造物内に事実上存在すれば足り、建造物内に存在する権利の有無を問いません。

 例えば、浮浪者が入っていた空家を放火すれば、「現に人がいる」建物を放火したことになり、現住建造物等放火罪が成立します。

 参考となる判例・裁判例として以下のものがあります。

大審院判決(昭和4年6月13日)

 裁判官は、

  • 刑法第108条に「現に人の住居に使用し又は人の現在する建造物」とある人とは、犯人以外の者を指称する

と判示しました。

札幌高裁判決(昭和47年12月19日)

 大学の建物の一部を封鎖・占拠中の学生らによる現住建造物等放火事件で、機動隊員が突入する建物を放火した事案で、建物に突入した機動隊員は刑法108条にいう「人」に該当し、建物に突入した建物を放火したのであるから、現住建造物等放火罪が成立するとした事例です。

 裁判官は、

  • 刑法108条にいわゆる「人」とは、犯人以外の者を指すものであって、機動隊員が訓練された強健な男子で、火炎びんが飛んでくるかもしれないことを承知で、消化の用意もして建物内に入ってきたものであり、建物が鉄筋コンクリート造で、出火場所が三階であるからといって、右機動隊が同条にいう「人」には該当しないとは、とうてい解しがたい

と判示しました。

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