刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(6) ~「摘示される事実(名誉を害するに足りる事実)は、虚偽の事実、真実、公知の事実、伝聞・無根のものであってもよい」を説明~

 前回の記事の続きです。

摘示される事実(名誉を害するに足りる事実)は、虚偽の事実、真実、公知の事実、伝聞・無根のものであってもよい

 名誉毀損罪(刑法230条)において、被害者に摘示される事実(名誉を害するに足りる事実)は、

  • 虚偽の事実であってもよい
  • 真実であってもよい(ただし、刑法230条の2の適用があり得る)
  • 公知の事実であってもよい
  • 伝聞(人から聞いた話)であってもよい
  • 無根のものであってもよい

とされます。

公知の事実について

 名誉を害する事実が、公知の事実であった場合でも名誉毀損罪が成立することを判示した以下の判例があります。

大審院判決(大正5年12月13日)

 耕地整理費用を出さなかったという事実を述べて名誉を毀損した事案です。

 裁判官は、

  • 名誉毀損罪における事実は、必ずしも非公知のものたるを要せず
  • 公知の事実といえども、これを摘示表白する以上は、同罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和9年5月11日)

 村長の非行を列挙した文書を配布し、名誉を毀損した事案です。

 裁判官は、

  • 名誉毀損罪における事実は、必ずしも非公知のものなることを要せず、公知の事実といえども、これを摘示するにおいては、同罪を構成するものとす

と判示しました。

大審院判決(昭和10年4月1日)

 県会議員が池の鯉を窃取したとの内容の演説をし、名誉を毀損した事案です。

 裁判官は、

  • 名誉毀損たるには、必ずしも隠秘の事実を摘発するに限らず
  • 既に社会の一部に喧伝せらるる事実といえども、公然これを摘示するにおいては、同罪を構成するものとす

と判示しました。

 なお、上記判例のとおり、摘示される事実が公知の事実であっても名誉毀損罪が成立しますが、学説では、公知の事実は、すでにそれを知っている人々の中で流布される限り、名誉を害するに足りないというべきとする見解があります。

伝聞・無根のものについて

 名誉を害する事実が、伝聞無根のものであった場合でも名誉毀損罪が成立することを判示した以下の裁判例があります。

東京高裁判決(昭和30年2月28日)

 裁判官は、

  • 刑法上、名誉毀損の罪は、公然摘示した事実が伝聞にかかるものたると、無根のものたるとを問わず、その事実が他人の名誉を毀損するに足ると認め得るをのたる限り、成立するのである
  • ところで、公務員が賄賂をとったというがごとき事実を公然摘示する所為は、まさに、公務員の名誉を毀損するに足るものということができるのであるが、刑法は第230条の2第3項を設け、事実が真実であることの証明のあった場合には特に罪の成立を否定することにした
  • 原判決を見るに、被告人は居村公聴会の席上において参集者約500名に対し、村長A、収入役Bその他村議会議員16名が村役場建築工事請負人たるC建設工業株式会社社長Cからそれぞれ賄賂を収受した旨を摘示したというのである
  • このような事実の摘示行為は、まさに、A村長以下の名誉を毀損するに足るものということができるのであるが、記録を調べてみても、被告人の摘示にかかる右事実が真実であることの証明のあったものとするにないので、被告人の右発言は、まさに、刑法第230第1項に規定する名誉毀損罪を構成するものというべく、その発言の際に、摘示にかかる事実は伝聞だとことわったとしても、また、真実であるかどうか知らないと付言したとしても、右犯罪の成立を否定すべきといわれはない

と判示し、名誉毀損罪が成立するとしました。

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