刑法(名誉毀損罪)

名誉毀損罪(13) ~違法性阻却自由③「議員の言動、労働争議行為、地方自治法の監査請求の正当性と名誉毀損罪の成否」を説明~

 前回の記事の続きです。

 名誉毀損行為の正当化は、刑法35条正当行為が中心になります。

 名誉毀損罪において、名誉毀損行為が正当行為であるとして無罪主張された事例として、

の判例があります。

 この記事では、「議員の言動」「労働争議行為」「地方自治法の監査請求」を説明します。

議員の言動の正当性と名誉毀損罪の成否

 国会議員が議院で行った演説・討論については、憲法51条が「院外で責任を問はれない」と規定しており、それが正当な政治活動の範囲内に止まる限り違法でなく、名誉毀損罪を成立させません。

 これに当たらない院外の言動、及び地方公共団体の議員の言動についても、それが正当な政治活動の範囲内に止まる限り違法で違法でなく、名誉毀損罪を成立させないと考えられます。

 参考となる以下の判例があります。

大審院判決(昭和5年9月1日)

 県会議員が県会において警察署長に不当な行動があると主張して知事の監督を促した事例です。

 裁判官は、

  • 名を失政指摘にかり、若しくはことさらに事実を誣妄したるに非ずして事実ありと確信して為したる場合の如きは、刑法第35条により罰すべきものに非ず

と判示しました。

 ただし、この判決に対しては、真実と確信していただけで行為が違法でなくなると解しているかのようであるのは、やや行き過ぎているという批判があります。

労働争議行為の正当性と名誉毀損罪の成否

 正当な労働争議行為は、正当行為として違法性が阻却され、犯罪が成立しません。

 労働争議行為と名誉毀損罪の成否が争われた判例として、以下のものがあります。

最高裁判決(昭和36年10月13日)

 労働争議行為において、労働組合員の規律ある行動を促し、組織の団結を強化する目的で組合の執行委員会で発言した際、非組合員の犯罪の嫌疑に言い及んだ事案です。

 裁判官は

  • 労働組合の執行委員会において公然他人の名誉を毀損する行為は、たとえ労働者の団結を強化する目的に出たものであっても、憲法28条の保障する権利行使に該当しない
  • かかる行為には、労働組合法1条2項、刑法35条の適用がない

と判示しました。

名古屋高裁判決(昭和30年6月13日)

 自由労働組合の幹部が、公共職業安定所と作業現場との連絡係を担当していたAを排斥するため、Aに犯罪事実があるなどの記載をしたビラ多数を配布するなどした事案です。

 裁判官は

  • 労働組合法第1条第2項は、労働組合の団体交渉その他の行為に付いて無条件に刑法第35条の適用があることを規定したものではなく、労働組合法制定の目的達成のため、即ち団結権の保障及び団体交渉権の保護助成によって労働者の地位の向上を図り、経済の興隆に寄与させるために為した正当な行為についてのみ、右規定の適用を認めているに過ぎないのである
  • 従って、労働者の団体交渉においても社会通念上許容される限度を超え、刑法所定の名誉毀損罪が成立する場合にも常に同法第35条が適用せられてかかる行為が正当化せられるものと解釈することは出来ない

と判示し、名誉毀損罪の成立を認めました。

札幌高裁判決(昭和31年1月31日)

 会社による人員整理に反対して闘争中、希望退職者の募集に応じたAの名誉を害するビラを掲示した事案です。

 裁判官は

  • Aに対する私憤というよりは、むしろこれが他に波及するのを阻止して組合員の団結をはかるため争議行為の一環として本件が敢行きれた

とし、

  • 使用された文言等に妥当をかく恨みはあっても、社会通念に照し、本件争議行為としてその正当性を逸脱したものとは考えられず、またその必要性においても相当の理由がある

として、労働組合法1条2項による違法性阻却を認め、名誉毀損罪は成立しないとしました。

地方自治法の監査請求の正当性と名誉毀損罪の成否

 地方自治法(242条)の監査請求

 村の公金100万円が行方不明であるとして、その旨を記載したチラシを村民に配布した上、会合を開いて同様の説明をし、その際、村長に右100万円につき着服等の不正があると告知した事案です。

 裁判官は、

  • その行為には、村財政の明確化のため、地方自治法に基づく事務監査請求をしようとの意思もあったと認め、名誉毀損の所為は「事務監査請求に必要な限度ないしは相当な範囲に属するかぎりは正当なものとして違法性を阻却する」

としたが、

  • 監査請求のためには村長に不正がある旨の説明までする必要はなく、また、不正があるとする根拠が極めて薄弱であるのに、あえてその旨の説明をしたのは、監査請求のための相当な範囲を超えたもので正当行為ではない

とし、名誉毀損罪の成立を認めました。

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