前回の記事の続きです。
刑法230条の2「公共の利害に関する場合の特例」の意義
刑法230条1項の名誉毀損罪は、
- 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
と規定します。
「その事実の有無にかかわらず」とは、摘示した事実が真実であっても名誉毀損罪が成立することを意味します。
真実を述べることも全て処罰されるとすれば、正当な批判も許されないことになり、社会の健全な発展は阻害され、言論・表現の自由の保障は、その意義を大きく制限されることになります。
そこで、刑法230条の2が昭和22年の刑法一部改正によって新設され、
一定の前提の下では、事実を述べることによって他人の名誉を毀損しても処罰されないと規定することによって、その範囲内では、刑法による保護の対象を正当な名誉にまで後退させ、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和
が図られました(最高裁判決 昭和44年6月25日)。
刑法230条の2が適用される場合は、名誉毀損罪は罰しない
刑法230条の2は、刑法230条1項の生存者に対する名誉毀損行為についてのみ適用されます。
刑法230条2項の死者に対する名誉毀損罪は、虚偽の事実の摘示を要件としているため、事実証明の問題を生じず、刑法230条の2の適用対象ではありません。
侮辱罪(刑法231条)は、具体的な事実の摘示のない場合に成立するので、刑法230条の2の適用対象ではありません。