これから2回にわたり、信書隠匿罪(刑法263条)を説明します。
信書隠匿罪とは?
信書隠匿罪は、刑法263条に規定があり、
他人の信書を隠匿した者は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する
と規定されます。
信書隠匿罪の「隠匿」とは、
対象物を隠すことにより他人の発見を妨げる行為
をいいます。
信書隠匿罪は、信書開封罪(刑法133条)のみでは信書の保護を全うすることができないとして置かれた規定です。
信書開封罪が、個人の私生活上の秘密を保護するのに対して、信書隠匿罪は、財物としての信書を保護するものです。
主体(犯人)
信書隠匿罪の主体(犯人)に制限はありません。
客体(他人の信書)
信書隠匿罪の客体は、「他人の信書」です。
「他人の信書」の「他人の」とは?
「他人の」の意義については、私用文書等毀棄罪(刑法259条)、建造物等損壊罪(刑法260条)、器物損壊罪(刑法261条)と同義で、
他人の所有に属する(犯人以外の所有に属する)
との意味です。
他人名義の信書という意味ではありません。
「他人の信書」の「信書」とは?
「信書」とは、
特定人から特定人に宛てて意思を伝達する文書
をいいます。
「信書」は封緘してあることを要しない
信書隠匿罪の信書の定義は、郵便法4条2項における信書の定義である 「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」と同義と解されます。
信書開封罪(刑法133条)の対象となる信書とは異なり、封緘してあることは要件ではなく、葉書も含まれます。
参考となる以下の判例があります。
大審院判決(明治40年9月26日)
現行の郵便法4条2項に相当する旧郵便法2条2項違反事件において、同項における「信書」の意義について、裁判官は、
- 信書とは、特定の人に対し自己の意思の伝達を媒介すべき文書を総称し、封緘の有無は信書たる性質に何らの影響を及ぼさざるなり
- 故に、封緘を施したる書状はもちろん、開封の書状、郵便葉書の如きは信書なりとす
と判示しました。
「信書」は郵便業務として送達されるものではないものを含む
信書隠匿罪の信書には、
- 郵便業務として送達されるものではない置手紙
- 直接相手方の郵便受けに投函される書状
なども含まれます。
相手方に伝達の完了した文書は、信書隠匿罪の信書とはならない
信書隠匿罪の対象となる信書は、
発送者が発送の意思をもって他人に交付したときから、相手方がその内容を了知するに至らない間のもの
をいい、
既に相手方に伝達の完了した文書は、本罪の信書とはならない
とするのが多数説です。
「信書の用を既に達したが、何かの価値により所有者が大事に保管している如きものは、信書というより器物とすべきである」とする説もあります。
この立場では、相手方がその内容を了知した以降の信書は、一般の文書として扱われることになると考えられます。
USBメモリのような電磁的記録媒体は信書には当たらない
USBメモリのような電磁的記録の記憶媒体は、文書ではないので信書に当たりません。
故意
信書隠匿罪は故意犯です。
なので、信書隠匿罪が成立するには、
他人の信書であること及び隠匿することの故意
が必要になります(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。
親告罪
なので、信書隠匿罪は、告訴がなければ、検察官は事件を起訴することができません。
信書隠匿罪の告訴権者について言及した判例は見当たりません。
信書隠匿罪は、
- 信書開封罪のみでは信書の保護が全うできないとして置かれたこと
- 受信人に伝達の完了した信書は、信書隠匿罪の信書に当たらないと解されていること
からすると、信書隠匿罪の告訴人については、信書開封罪(刑法133条)における告訴人と同様に解するのが妥当とされます。
信書開封罪(刑法133条)の告訴権者について、判例(大審院判決 昭和11年3月24日)は、
- 封緘した信書の秘密に対する権利は発信者が有し、信書が受信者に到達した後は発信者及び受信人の双方が有すると解するのが相当である
として、受信者に到達した後の信書が隠匿された事案につき、発信者による告訴を適法としています。
学説では、信書到達の前後を問わず、発信人及び受信人ともに告訴権を有するというのが多数説ですが、到達前の信書について受信人に告訴権を認める必要性は乏しいことから、上記判例の立場が妥当と解されます。
信書隠匿罪の記事一覧
信書隠匿罪(1) ~「信書隠匿罪とは?」「信書とは?」「故意」「親告罪」などを説明~
信書隠匿罪(2) ~「信書隠匿罪と信書開封罪、窃盗罪、文書毀棄罪、器物損壊罪などの関係」を説明~