前回の記事の続きです。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪(刑法103条)は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意は、
- 蔵匿・隠避の客体が罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者であることの認識
及び
- その者を蔵匿・隠避させることの認識
です。
なので、犯人蔵匿・犯人隠避を行った犯人が
又は
- 拘禁中に逃走した者ではないと信じて蔵匿・隠避したとき
は、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意が阻却され、本罪は成立しません。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意に関する判例・裁判例
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意に関する判例・裁判例として以下のものがあります。
真犯人であるか否かの認識は故意の成立と無関係
「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者」の認識については、真犯人であるか否かの認識は故意の成立と無関係であるとした以下の裁判例があります。
東京高裁判決(昭和59年4月5日)
裁判官は、
- 刑法103条にいう蔵匿の相手方となる「罰金以上の刑に当たる罪を犯したる者」とは、原判決が説示しているとおり、真犯人であることを要せず、犯罪の嫌疑により訴追中の者であれば足りると解されるから、蔵匿の相手方に関する故意の内容としては、その限度での認識をもって十分である
としました。
その罪が客観的に罰金以上の刑に当たる罪であれば、その罪を犯したことの認識で足りる
法定刑が罰金以上の刑であることの認識がなくても、その罪が客観的に罰金以上の刑に当たる罪であれば、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の故意の故意が認められます。
この点を判示したのが以下の判例です。
裁判官は、
- 被告人において被蔵匿者が密入国者であることを認識してこれを蔵匿した以上、その刑が罰金以上であることの認識がなくても、犯人蔵匿罪が成立する
としました。
福岡高裁判決(平成13年11月20日)
交通反則通告制度の適用を受ける放置駐車違反の犯人を隠避したという事案において、当該犯罪事実の認識があれば、その刑が罰金以上であることの認識までは必要でないとしました。
裁判官は、
- 刑法103条に規定する犯人隠避罪は、当該犯人の犯した罪について罰金以上の刑が法定されており、刑事訴追、処罰の可能性があれば、いまだ訴訟条件が整っていない段階においても成立すると解されるから、放置駐車違反についても(道路交通法125条、119条の2第1項1号、45条1項)納付期限が経過しておらず、将来、刑事訴追を受け法定の罰金刑に処せられる可能性が存する以上、これが刑法103条にいう「罰金刑以上の刑に当たる罪」にあたることは明らかである
- また、犯人隠避罪の成立には、罰金以上の刑が法定されている当該「犯罪事実」を認識していれば足り、その刑が罰金以上であることの認識までは必要でない
と判示しました。
その他故意に関する裁判例
その他故意に関する裁判例として以下のものがあります。
大審院判決(大正6年9月27日)
犯人の氏名を知っていたかどうかは犯人隠避罪の成立に関係がないとしました。
裁判官は、
- 被告が特定の犯人を隠避せしめたる以上は、これにより公の捜査権を侵害するをもって被告においてその犯人の氏名を知ると否とに関せず犯人隠避罪を構成するものとす
と判示しました。
大阪高裁判決(昭和56年12月17日)
窃盗犯人Aを爆発物取締罰則違反者と誤信して蔵匿しても、故意を阻却しないとしました。
裁判官は、
- Aの犯行として証拠上確定し得るのは窃盗罪であり、被告人の認識との間に齟齬があるが、その間の錯誤が故意を阻却するものでないことは原判示説示のとおりであるから、被告人に犯人隠避罪の成立を認めた原判決は正当である
と判示しました。