前回の記事の続きです。
罪数
この記事では、犯人蔵匿罪と犯人隠避罪の罪数を説明します。
同一の事件で、同一人を蔵匿し、隠避させた場合の罪数
同一の事件で、同一人を蔵匿し、隠避させた場合の罪数は、犯人蔵匿罪と犯人隠避罪は包括一罪になります。
蔵匿、隠避とも同一構成要件内の行為なので、包括一罪になるという考え方になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(明治43年4月25日)
裁判官は、
- 犯人を蔵匿し又は隠避せしむる罪(刑法第103条)は、犯人の発見逮捕を妨害する所為にして蔵匿といい、隠避というも、同じく捜査権侵害の目的を達する手段にほかならず
- 故に、同一被告人が同一の目的をもってこの2所為を継続して行いたるときは、これを包括的に観察し、一個として処断すべきものとす
と判示しました。
裁判官は、
- 同一人を蔵匿し、かつ、隠避させたのは包括一罪であり、同一事件であっても、数人の犯人を一個の行為で蔵匿又は隠避させたときは、一個の行為にして数個の罪名に触れるものと見るべきである
と判示しました。
同一事件で、数名の者を蔵匿し又は隠避させた場合の罪数
同一事件で、数名の者を蔵匿し又は隠避させた場合は、犯人ごとに一罪(犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪)が成立します。
この点を判示したのが以下の判例です。
大審院判決(大正12年2月15日)
同一事件の共犯者A、B、Cをかばうため、まずAを隠避させ、次いでBを蔵匿し、さらにBとCを一緒に蔵匿した事案です。
裁判官は、
- (刑法103条の罪)は不法に個人を庇護して捜査権の作用を妨害するものなるをもって、同一の犯罪事件につき共犯者数名ある場合に数個の行為をもって各別にこれを蔵匿又は隠避せしむるは犯人一名ごとに独立の一罪を構成し、また一個の行為をもってこれを蔵匿又は隠避せしむるは一行為数罪名に触れるものに該当するものとす
と判示し、犯人ごとに一罪が成立するとしました。
つまり、
- 同一事件で、数名の者を、別の機会に、順次、蔵匿し又は隠避させた場合は、犯人一名ごとに独立の一罪(犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪)が成立する
- 同一事件で、数名の者を、一個の蔵匿行為又は隠避行為により蔵匿し又は隠避した場合は、犯人ごとに一罪(犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪)が成立し、犯人ごとに成立した複数の犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪は、観念的競合の関係になる
としました。
裁判官は、
- 一人を蔵匿し、かつ、隠避させたのは包括一罪であり、同一事件であっても、数人の犯人を一個の行為で蔵匿又は隠避させたときは、一個の行為にして数個の罪名に触れるものと見るべきである
と判示しました。
つまり、一個の蔵匿行為又は隠避行為で、数名の者を蔵匿し又は隠避した場合は、犯人ごとに一罪(犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪)が成立し、犯人ごとに成立した複数の犯人蔵匿罪又は犯人隠避罪は、観念的競合の関係になるとしました。