これから10回にわたり証人威迫罪を説明します。
証人威迫罪とは?
証人威迫罪は、刑法105条の2に規定があり、
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
証人威迫罪が設けられた経緯
証人威迫罪(刑法105条の2)は、昭和33年法律107号による刑法の一部改正によって新設された規定です。
証人威迫罪が新設される前において、刑事暴力事犯の被疑者・被告人又はこれらの関係者が被害者や目撃者等の事件関係者に対し、これらの者が犯人に不利益な供述・証言をしたとして恨み、あるいはこれらの者をして犯人に利益な供述・証言をさせるべく、面会を強要し、あるいは犯人に利益な供述・証言をするよう迫る等の事件が多数発生しましたが、その行為が暴行・脅迫の程度に達しない場合にはこれを検挙処罰すべき規定がないために、事件関係者らが有形無形の損害を受けることになり、これらの者が刑事事件の捜査・審判への協力を回避する傾向がみられる状況にありました。
そのため、これら事件関係者を保護するとともに、刑事司法の適正な運営を確保するために、証人威迫罪が新設されました。
保護法益
証人威迫罪は、証人・参考人等に対する面会強請・強談威迫の行為を処罰することにより、刑事司法の適正な運用を確保しようとする規定です。
証人威迫罪の保護法益が
- 証人等の個人的平穏ないし自由という個人的法益なのか
- 刑事司法の適正な運用という国家的法益にあるのか
- 双方とすればそのいずれに重点があるのか
という点については争いがみられます。
この点に触れた最高裁判例は見当たりませんが、下級審裁判例には、証人威迫罪の趣旨について言及したものがあります。
- 「証拠隠滅罪の一類型として、犯罪者に対する国家権力の捜査権及び裁判権を妨害する行為を禁止し、もって司法に関する国権の作用を保全する」ことにあるとするもの(東京高裁判決 昭和35年11月29日)
- 「証人等の個人的平穏を保護するとともに、刑事司法の適正な運用を確保し、これを阻害する者を処罰する」ことにあるとするもの(大阪高裁判決 昭和35年2月18日)
- 「刑事司法の適正な運用という国権の作用であるとともに、刑法105条の2所定の者の個人的平穏でもある」とするもの(福岡高裁判決 昭和38年12月6日)
- 「刑事司法の適正な運営や証人等の意思の自由の確保」とするもの(札幌高裁判決 平成19年3月27日)
証人威迫罪の類似規定
証人威迫罪と同様の行為を処罰する規定として、暴力行為等処罰に関する法律があります。
暴力行為等処罰に関する法律の
- 2条1項「利得目的を持つ集団的な面会強請・強談威迫」
- 2条2項「常習的な面会強請・強談威迫」
が該当します。
これらの規定の面会強請・強談威迫の意味内容は、証人威迫罪のそれと同旨とされています。