前回の記事の続きです。
証人威迫罪における「捜査・審判に必要な知識」とは?
証人威迫罪は、刑法105条の2に規定があり、
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
証人威迫罪の客体は、「自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族」です。
この記事では、証人威迫罪の客体における「捜査・審判に必要な知識」の意義について説明します。
「捜査・審判に必要な知識」とは?
「捜査・審判に必要な知識」とは、
- 捜査機関・裁判機関において刑罰権の有無を判断するに当たり関係があると認められる一切の知識をいう
- 犯罪の成否・態様、刑の量定の資料たるべき情状に関するもののほか、訴訟条件等の訴訟法上の事実に関するものを含む
- 被告人・被疑者にとって利益なものであると不利益なものであるとを問わない
とされます。
証人威迫罪(刑法105条の2)を証拠隠滅罪(刑法104条)の一類型として捉え、「証拠」たる証言・供述を歪めるおそれのある行為を処罰するのが証人威迫罪の本質です。
そうである以上、「捜査・審判に必要な知識」の範囲は、証拠隠滅罪における「証拠」のそれと同じであり(詳しくは前の記事参照)、「知識」とは、証言・供述という形で「証拠」となり得る知識をいうと解するべきとされます。
なので、「捜査・審判に必要な知識を有する(と認められる)者」とは、
捜査・審判において証拠たり得る知識を保有する(と認められる)者をいう
と解するべきとされます。
鑑定人も「捜査・審判に必要な知識を有する者」に含まれる
「知識」とは、実際に体験した事実に関するものに限られるとの見解がありますが、実際に体験した事実に関するものに限らず、一般的法則に関する知識を有する鑑定人(DNAの鑑定人、薬物の鑑定人など)も証人威迫罪の客体となるとの見解が多数です。
一般的法則に関する知識であっても、鑑定あるいは証言・供述として証拠たり得る場合があるので、鑑定人を除外する理由はなく、かかる知識を有する者は、鑑定人としてのみならず、証人・参考人としても証人威迫罪の客体に含まれるというべきとされます。
鑑定人は、どの段階から証人威迫罪の客体となるかについて、鑑定命令(刑訴法165条)又は捜査機関の鑑定嘱託を受けて鑑定終了前の段階では、厳密には「知識」を有していないこともありますが、証人威迫罪の客体は「知識を有していると認められる者」なので、鑑定命令・嘱託後の鑑定人は、証人威迫罪の客体に含まれると解されます。
通訳人は「捜査・審判に必要な知識を有する者」に含まれない
通訳人は単に捜査・審判の関係者であって、証拠たり得る知識を有する者ではないため、被疑者の供述の信用性等に関して証人・参考人となり得る知識を有している場合である場合は格別、通訳人という立場のみによっては証人威迫罪の客体とはならないと解されます。
捜査官や裁判官は「捜査・審判に必要な知識を有する者」に含まれない
捜査機関・裁判機関として「刑事事件」に関する知識を有するに至った捜査官や裁判官等も、通訳人と同様、当該事件を担当したことにより事件に関する知識を得たに過ぎず、証拠たり得る知識を有しない限り、証人威迫罪の客体とはなりません。
ただし、これらの者も、犯罪の被害・目撃状況、現行犯逮捕手続、自白の任意性・信用性等に関して、証人・参考人となり得る知識を有している場合には、証人威迫罪の客体となります。
この点につき、捜査官である警察官も、犯行を現認した場合には、審判に必要な知識を有すると認められる者として証人威迫罪の客体となります。
この点を判示した以下の裁判例があります。
裁判所は、
捜査官である警察官も犯行を現認し審判に必要なる知識を有すると認められる者は刑法第105条の2の客体となり得る
と判示しました。