前回の記事の続きです。
「証言終了後の証人」も証人威迫罪の客体になる
証人威迫罪は、刑法105条の2に規定があり、
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
証人威迫罪の客体は、「自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族」です。
証人威迫罪の客体には、
証言を終えた者
も含みます(最高裁決定 昭和40年11月26日)。
その理由付けについては、学説では、
- 再喚問の可能性があること
- 再喚間の可能性があることとともに、証言をした者が報復されたという事実は証人となる者一般に畏怖感を与え、公正な証言を躊躇させるおそれがあるから、これを防止するためであること
- 再喚問の可能性があることとともに、証人等がお礼参り等を予想して不安を抱くことを防止するためであること
を挙げています。
この点に関する裁判例として、以下のものがあります。
大阪高裁判決(昭和35年2月18日)
一度証人として証言した者であっても、当該刑事被告事件が未確定状態にある間は、再度証人として尋問を受けることも予測されるから、証人威迫罪の客体となるとした事例です。
裁判所は、
- 刑法第105条の2は、刑事被告事件の証人等の個人的平穏を保護するとともに、刑事司法の適正な運用を角に舗し、これを阻害する者を処罰する趣旨であって、当該事件が未確定状態にある間に行われる本条所定の行為が処罰対象にとなるものと解するのを相当とする
- たとえ、本件のようにAが一度証人として証言した後においても、判決確定前においては、なお同人が再度証人として尋問を受けることも予想され得ることであり、また被告人において右証言を取り消しさせる目的も希望も有していなかったとしても、その行為自体が刑事司法の適正な運用を阻害するものとして同条処罰の対象となるものであって、右目的、希望の有無は本件犯罪の成否に影響はない
と判示しました。
東京高裁判決(昭和35年11月29日)
証人威迫罪の成立には、証人らが公判審理の段階において威迫された後に証拠調べを受ける可能性のあることを要するとの控訴趣意に対し、裁判所は、その可能性のあることを要しないとしてこれを排斥しました。