前回の記事の続きです。
証人威迫罪の行為
証人威迫罪は、刑法105条の2に規定があり、
自己若しくは他人の刑事事件の捜査若しくは審判に必要な知識を有すると認められる者又はその親族に対し、当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する
と規定されます。
証人威迫罪(刑法105条の2)の行為は、
当該事件に関して、正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をなすこと
です。
「当該事件に関して」とは?
「当該事件に関して」とは、
自己又は他人の刑事事件に関して
という意味であり、
当該具体的事件と無関係な行為を証人威迫罪の処罰対象から除外するとの趣旨
です。
したがって、当該事件に全く無関係な押売行為や債権取立行為の過程でなされる「面会強請・強談威追」は証人威迫罪による処罰の対象となりません。
「正当な理由がないのに」とは?
「正当な理由がないのに」とは、
構成要件該当行為が適法になされることが多くある場合に、違法性を欠くときは処罰しないという違法性の一般原則を表現したもの
です。
旧警察犯処罰令1条4号の規定に関し、
- 「故なく面会を強請し」とは、正当な理由なく相手の意に反して面会を要求するという意味であり、面会を求める者と求められる者との関係その他四囲の状況において面会を要求することが社会通念上妥当でないと認められることをいうとの判例(大審院判決 大正12年11月30日)
- 「故なく」の文言は、「面会を強請し」にのみかかるもので、「強談威迫」にかかるものではないとする判例(大審院判決 大正10年4月13日)
があり、これらの大審院判例の見解は、証人威迫罪の「正当な理由がないのに面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者」の解釈にも妥当すると解されます。
「面会を強請し」とは?
「面会を強請し」とは、
相手の意思に反して面会を要求すること
をいいます。
たとえ1回の要求であっても強請といえる場合があります。
なお、相手の面前での「面会強請」というのはあり得ないので、住居・事務所の玄関・入口等から中にいる相手に大声で、あるいは家人を介して面会を求めるのが通常の態様であると考えられます。
「強談威迫」とは?
「強談威迫」とは、「強談」又は「威迫」です。
「強談」とは、
相手に対して言語をもって強いて自己の要求に応ずるよう迫る行為
をいいます。
「威迫」とは、
相手に対して言語・動作をもって気勢を示し、不安・困惑を生じさせる行為
をいいます。
裁判例に現れた「強談威迫」の具体的事例として以下のものがあります。
- 恐喝事件の被疑者の友人が、その被害者に対し、凄みのある語調で示談書の作成・持参方を要求した行為(長野地裁判決 昭和34年2月16日)
- 売春防止法違反の被告人らが、被告人らに不利な証言をした証人に対し、休廷中、その証言について難詰し、自己らに利益なように偽証するよう暗に求めた行為(前橋地裁判決 昭和37年10月31日)
- 運転手仲間に対する道路交通法違反被告事件の公判を傍聴していた者数名が、当該事件の被告人に不利な証言をした警察官に対し、証言終了後、裁判所構内で、警察官を取り囲み、証言を取り消すよう強要した行為(東京高裁判決 昭和39年7月6日)
- 大学紛争にからむ学部長監禁事件で起訴された被告人が、証人となるととが確実であった大学教師と路上で出会った際、同人に対し、その行く手を遮り、次回公判に証人として出廷する勇気があるかなどと繰り返し申し向けた行為(福岡高裁判決 昭和49年2月18日)
- 傷害事件で逮捕された被疑者と同じ労働組合に属する者数名が、これと対立する組合に属する被害者に対し、事件を捏造して無実の被疑者らを逮捕させたものであると自認するよう迫った行為(福岡地裁判決 昭和49年8月27日、福岡高裁判決 昭和51年9月22日)
- 詐欺事件の被疑者の弁護士が、詐欺グループの幹部から頼まれて、被疑者との接見中、事実関係を供述したいと申し出た被疑者に対し、「ふざけるな」と怒鳴り、接見室の仕切り板を手でたたいて、「余計なことをしゃべったら、お前の女だってこっちで面倒見てるんだし、実家の住所だって知ってるんだから、お前、どうなっても知らないぞ」などと申し向けた行為(宮崎地裁判決 平成21年4月28日)
があります。
裁判例に現れた「威迫」の具体的事例として以下のものがあります。
- 検察官の質間に答えて、傍聴人を指し示し「スリ」の仲間であると証言した証人に対し、証言終了後、法廷外で取り囲んで脅したというもの(最高裁決定 昭和40年11月26日)
- 殺人等被告事件(裁判員裁判)の被告人が、証人尋問中に、証人に対して、「てめえ、見たのか、この野郎が、おらあ」、「てめえ、ぶっ殺してやろうか、この野郎」などと怒号したというもの(東京高裁判決 平成24年9月27日)
- 暴行被告事件の被告人が、証言後の女性に対し、公判係属中に、「偽証罪で告訴するのでその心算で対処されるがよい」、「貴女がいつまでも謝罪も反省もなくば、永遠に刑事告訴、民事裁判は続くと思いますよ」など記載した文書を郵送して閲読させたというもの(最高裁決定 平成19年11月13日)
があります。