前回の記事の続きです。
証人威迫罪は抽象的危険犯である
証人威迫罪(刑法105条の2)の主たる保護法益は、刑事事件の捜査・審判の適正な運営です(証人威迫罪の保護法益の説明は前の記事参照)。
証人威迫行為によって、これらが現実に侵害され、あるいはその具体的危険が生ずることは証人威迫罪の成立要件ではありません。
その意味で、証人威迫罪は「抽象的危険犯」です。
抽象的危険犯とは、
犯罪の成立に具体的な危険の発生までは要求されておらず、一般的・抽象的危険の発生だけで犯罪の成立(既遂)を認める犯罪
をいいます。
判例も証人威迫罪が抽象的危険犯であることを示しています。
福岡高裁判決(昭和38年8月27日)
証人威迫罪は、捜査権・裁判権が現実に侵害されたことを成立要件とするものではなく、証人等の供述内容の真偽にかかわらず、 また、供述後においても成立するとしました。
福岡高裁判決(昭和51年9月22日)
強談威迫の行為は刑事司法の適正な作用を侵害する可能性のあるものであれば足り、相手方の供述等に不当な影響を及ぼすべき具体的な危険性のあることを要しないとしました。
証人威迫罪の成立には、証人等が公判審理の段階において証拠調べを受ける可能性があることは要しないとしました。