これから6回にわたり、信用毀損罪(刑法233条前段)を説明します。
信用毀損罪とは?
信用毀損罪は刑法233条前段に規定があり、
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する
と規定されます。
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損する罪が「信用毀損罪」となります。
なお、虚偽の風説を流布し、人の業務を妨害する行為は「業務妨害罪」となり、偽計を用いて、人の業務を妨害する行為は「偽計業務妨害罪」(刑法233条後段)となります。
信用毀損罪の罪質に関し、学説は、
- 財産に対する罪とみる説
- 名誉毀損罪の一種とみる説
- 人格的法益に対する罪の性質とともに財産に対する罪の性質を併有する独立の罪とみる説
の三説に分かれているところ、③説が相当であると解されています。
主体(犯人)
信用毀損罪の主体に制限はありません。
法人が信用毀損罪の主体たり得るかについては、刑法所定の各犯罪は、法人がその主体となることを予定していないことから、法人ではなく、当該違反行為をなした自然人が処罰されることとなります。
この点、名誉毀損罪の判例ですが、以下の判例が参考になります。
大審院判決(昭和5年6月25日)
法人の代表者が法人の名義を用いて他人の名誉を毀損したときは行為者を処罰すべきものとするとした判決です。
裁判所は、
- 法人の代表者が法人の名義を用いて他人の名誉を毀損したるときは、その行為者を処罰すべきものとす
と判示しました。
客体(人の信用)、客体には法人を含む
信用毀損罪の客体は、「人の信用」です。
「人の信用」の「人」とは?
信用毀損罪にいう「人」とは、 自然人であると、法人であるとを問わず、犯人以外の者をいいます。
大審院判決(大正2年1月27日)、大審院判決(昭和12年3月17日)は、それぞれ株式会社四十三銀行、株式会社五十銀行に対する信用毀損罪の成立を認めています。
大審院判決(昭和7年10月10日)は、株式会社三越の業務を妨害した事案につき、「被害者の法人たると自然人たるとは同罪の成否に消長を及ぼすべき事項に非ざるなり」と判示しています。
岡山地裁判決(昭和42年3月20日)は、「法人の業務を妨害した場合であっても、それが実質的に被告人の経営する個人企業とみられるようなときには、他人の業務を妨害したことには当たらない」と判示しています。
組合等の法人格なき団体については、実質的にみて一個の独立の組織体として社会的・経済的活動を営み、信用の帰属主体たり得る団体は、信用毀損罪の客体となるとなり得ます(通説)。
大審院判決(大正15年2月15日)は、威力業務妨害罪に関し、「人の業務とは被告以外の者の業務をいうものにして、その者が自然人たると法人たると、また法人以外の団体たるを問わざるものとす」と判示し、三業組合福島見番事務所に対する威力業務妨害を認めました。
「人」の特定性
客体としての「人」の特定性については、名誉毀損罪に関する判例ですが、選挙演説会場において「町の一番偉い人」「某婦人議員」「役員である銀座街選出の有力な議員」などと演説した事案につき、演説の全趣旨及び当時の一般的風評等により、聴衆約200名中の約半数がそれぞれ誰を指すか推知できれば特定性に欠けるところはないとした裁判例(東京高裁判決 昭和32年5月21日)があり、参考になります。
「人の信用」の「信用」とは?
信用毀損罪にいう「信用」とは、人の倫理的価値を内容とする通常の用語法によるものとは異なり、
人の経済的側面における価値を内容とするもの
です。
「刑法233条が定める信用毀損罪は、経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり、同条にいう『信用』は、人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信用に限定されるべきものではなく、販売される商品の品質に対する社会的な信用も含むと解するのが相当である」
と判示しました。