刑法(信用毀損罪)

信用毀損罪(4) ~「信用毀損罪の故意」を説明~

 前回の記事の続きです。

信用毀損罪の故意

 信用毀損罪(刑法233条前段)は故意犯です(故意についての詳しい説明は前の記事参照)。

 信用毀損罪の故意は、

構成要件として定められた各手段(「虚偽の風説の流布」「偽計」)を用いる認識と、その結果人の信用を低下させるおそれのある状態が生じることの認識を要する(その認識は未必的認識で足りる)

とされ、かつ、

積極的に人の信用を毀損する目的意思を要しない

とされます。

 この点、信用毀損罪の判例ではありませんが、以下の名誉毀損罪の判例の考え方が参考になります。

大審院判決(大正6年7月3日)

 裁判所は、

  • 名誉毀損罪の成立には、名誉毀損行為が人の名誉を毀損する認識に出つるをもって足れりとし、必ずしも更に人の名誉を毀損する目的に出たるものなることを要せざるは明白なり

と判示しました。

東京高裁判決(昭和47年7月17日)

 裁判所は、

  • 他人の社会的評価を低下させる事実を認識する以上、通常は、これによって他人の社会的評価を低下させるおそれのあることも認識しているものと考えられるから、名誉殿損罪の故意としては、前者をもって足ると解すべきであるもし、犯人が特別の情況によって人の社会的評価を低下させるおそれのあったことを認識しなかった点につき過失がないとか、相当の理由があったというのであれぼ格別、所論指摘のような事実は未だ名誉毀損の故意を阻却するものではない

と判示しました。

流布する風説の虚偽性の認識

 流布する風説の虚偽性については、客観的真実に反することにつき、少なくとも未必的認識を要すると解されます。

 この点、参考となる以下の裁判例があります。

東京地裁判決(昭和49年4月25日)

 裁判所は、

  • 「虚偽の風説」を確実な根拠・資料に基づかない事実とした解釈に従うかぎり、故意の内容は、これに照応して、自己の言説が確実な根拠・資料に基づかないことの認識であると解するのが相当である

と判示しました。

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