刑法(偽計業務妨害罪)

偽計業務妨害罪(2) ~「業務妨害罪の『業務』とは、『職業その他社会生活上の地位に基づくもの』であることを要する」を説明~

 前回の記事の続きです。

業務妨害罪の「業務」とは、「職業その他社会生活上の地位に基づくもの」であることを要する

 業務妨害罪(刑法233条後段刑法244条)の「業務」であるためには、

職業その他社会生活上の地位に基づくもの

であることを要します。

 個人生活上の行為は反覆継続されるものであっても偽計業務妨害罪(刑法233条後段)の「業務」に当たりません。

 法人や団体は、もともと特定の社会活動を行うことを目的として組織されるものであり、その目的遂行のための活動は、おおむね「社会生活上の地位に基づくもの」と認めることができます。

 営利法人である会社の企業活動、特殊法人の事業活動はもとより、政党、労働組合、慈善団体の行う事務、学校における教育事業も業務性が肯定されると考えられます。

 これに対し、自然人については、社会生活と個人生活の区分がさして明確でなく、何が社会生活上の地位に基づく活動であるか判断に困難の伴う場合が少なくありません。

 一般的にいって、家庭での日常生活活動(料理・清掃・洗濯など)、趣味誤楽としての活動は反覆されるものであっても「業務」には含まれないと考えられます。

 学生の講義聴講、私人の行う冠婚葬祭も同様に「業務」には含まれないと考えられます。

職業

 社会生活上の地位に基づく活動の代表的なものが「職業」です。

 「職業」が「業務」として保護されるのは、それが生計を維持するための重要な経済活動であるのみならず、人は職業を通じて社会活動の一部を分担する役割を果たしていることによります。

 なので、「職業」に当たるか否かもこのような観点から判断されるべきものであり、報酬の有無とは必ずしも直接の関係はなく、報酬を得ていなくても「職業」と評価すべきものもあり得ます。

 妨害された対象が「職業」と評価され、業務性が認められた裁判例として、

  • 社会党員の政治活動用ビラ頒布行為(水戸地裁判決 昭和49年9月2日)
  • 教授の大学における授業(大阪地裁判決 昭和52年5月24日)
  • 大学における研究と事務(神戸地裁判決 昭和48年3月30日)

があり、いずれも威力業務妨害罪刑法234条)の成立が認められています。

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