刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(22) ~「違法性阻却事由(被害者の承諾)」を説明~

 前回の記事の続きです。

被害者の承諾

 逮捕罪、監禁罪において、違法性阻却事由として、

が挙げられます。

 この記事では「被害者の承諾」を説明します。

被害者の承諾があっても、逮捕監禁行為の方法・態様によっては違法性は阻却されない

 被害者の承諾によっても違法性は阻却されます。

 しかし、被害者の承諾があっても、逮捕監禁行為の方法・態様が残酷で、著しく公序良俗に反するものは違法性を阻却しません。

 この点、参考となる以下の判例があります。

名古屋地裁判決(昭和34年4月27日)

 被害者(17歳)のズボンを脱がせ、両手を後頭部へ回して、その両手首、両上腕部及び両足首をそれぞれ木綿細ひも又はビニール被覆電線で堅く縛った上、抱きかかえて深さ約63.5センチメートル、直径約84センチメートルの小判型風呂桶の中に入れ、同人の両膝を立てさせ、上半身が膝につく程屈ませ、上から蓋をして約20本の釘で打ちつけて上記風呂桶内に監禁し、窒息に基づく致死の結果を生じさせた事案です。

 裁判所は、

  • 被告人が被害者の承諾を得たものと考えて本件行為をしたとしても、方法、態様は甚だ残酷で、著しく公序良俗に反するといわなければならないので、本件犯行の違法性を阻却するものとは為し得ないから、被告人の所為は当初から違法性を有するとしなければならない

と判示し、逮捕監禁致死罪(刑法221条が成立するとしました。

被害者の同意は任意のものでなければならない

 被害者の同意は任意のものでなければならず、

  • 強制による場合
  • 同意の内容だけでなく動機についても錯誤があり、正しく理解していなかった場合

は、同意があったということはできません。

 被害者の同意があったとの主張を排斥した裁判例として以下のものがあります。

京都地裁判決(平成22年1月28日判決)

 不登校児童の私設更正施設の経営者である被告人が、共犯者と共謀し、被害者に暴行を加え、入所を嫌がる被害者(被害者の親が入塾をさせようとした)を無理やりスクールに連行し、被害者を監禁するなどした傷害、逮捕監禁、監禁事件です。

 裁判所は、

  • 同意書を作成していた2名の被害者については、スクールでの生活中に脱走を試みていることから、同人らがスクールでの生活を全く望んでいなかったことは明らかであり、作成されている同意書は、暴行・脅迫を受けながらスクールにおいて監禁中にスクールの施設の責任者の指示によって作成されたものであることから、これによって同人らがスクールで生活することを同意していたとはいえない
  • 他の被害者1名については、スクールでの生活を許容するような供述もあるが、供述を総体として理解すればやむなくスクールに留まっていたものと認めるのが相当であり、真摯に同意したとはいえない

とし、傷害罪、逮捕監禁罪、監禁罪が成立するとしました。

 以下の判例は、被害者に動機に錯誤があった場合にも、被害者の同意があったとはいえないとしています。

最高裁決定(昭和33年3月19日)

 刑法第220条第1項にいう「監禁」は、暴行または脅迫によってなされる場合だけではなく、偽計によって被害者の錯誤を利用してなされる場合をも含むものと解すべきであると判示した判決です。

 被告人は、内縁の夫とともに経営する特殊飲食店の接客婦として雇い入れたA女(当時18歳)が逃げたので、これを連れ戻そうと考え、同女に対し、入院中の同女の母のもとに行くのだとだまして、あらかじめ被告人宅まで直行するように言い含めて雇ったタクシーに乗り込ませ、被告人もこれに乗り込み、運転手に発車を命じて疾走させ、A女がだまされたことに気付き、運転手に停車を求めて車外に逃げ出すまでの約12キロメートルの間脱出不能の状態においたという事案で、監禁罪の成立を認めました。

 偽計によって被害者を錯誤に陥らせているのは、自動車に乗ること自体ではなく、自動車の行く先であるから、被害者は動機に錯誤があるにすぎず、この事案の場合、被害者の同意があったとはいえないという考え方になります。

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