前回の記事の続きです。
「期待可能性」と逮捕罪、監禁罪の成否
期待可能性とは、
犯行時、犯罪の行為者が適法行為を行うことを期待できること
をいいます(期待可能性の詳しい説明は前の記事参照)。
期待可能性がなければ、犯罪行為を行っても犯罪が成立しません。
期待可能性を犯罪の成立条件とする理由は、
適法な行為を行うことが期待できないような場合においては、違法な行為を故意に行ったとは言えず、犯罪行為を行った責任を追及することはできない
という考え方がとられるからです。
期待可能性がない状況とは、たとえば、
- 他人を殴ること(傷害罪)を強制された状況
- どう考えても自動車事故(過失運転致死傷罪)を避けることができなかった状況(いきなり対向車線からはみ出して突っ込んできた車を避けることができなかったなど)
などがあげられます。
監禁罪において、期待可能性が争点となった判例として、以下のものがあります。
労働争議に際し、被告人ら労組員が会社側幹部に暴行・脅迫を加え、かつ引き続き監禁した事件です。
原判決(高裁判決)は、前半の暴行・脅迫のみを切り離してこれを期待可能性がないものとして無罪とし、後半の不法監禁は期待可能性がないとはいえないとして有罪としました。
原判決に対し、最高裁は、
- 刑法における期待可能性の理論は種々の立場から主張されていて帰一するところを知らない有様であるが、仮に期待可能性の理論を認めるとしても、被告人らの行為が苟も犯罪構成要件に該当し、違法であり、かつ被告人らに責任能力及び故意、過失があって法の認める責任阻却事由がない限りは、その罪責を否定するには首肯するに足りる論拠を示さなければならないことはいうまでもない
とした上で、
- 争議に相当の理由があり、急速な解決を必要としたこと、会社側幹部が逃避的態度を示したこと、被告人らは組合員の勢いに引きずられたものであること、加えた危害が高度でないことなどの理由だけでは被告人らの罪責を阻却する事由とはならないから、被告人らの所為は暴力行為等処罰に関する法律1条1項に該当する犯罪であるといわなければならない
と判示し、暴力行為等処罰に関する法律1条1項における監禁罪が成立するという判断を示しました。