刑法(逮捕・監禁罪)

逮捕・監禁罪(28) ~「逮捕罪、監禁罪における共犯からの離脱」を説明~

 前回の記事の続きです。

共犯から離脱する方法

犯行着手前に共犯から離脱する方法

 たとえば、犯人A、B、Cの3人が「あの店から宝石を盗もう」など言って共謀したとします。

 犯行に着手する直前で、犯人Cが「犯行から離脱したい」と思ったときに、犯人Cは何をすれば、共犯から離脱したと認められるでしょうか?

 このときの共犯からの離脱の方法は、判例で示されており、その方法は、

  1. 離脱者が他の共犯者に「共犯から離脱する」旨の意思表示を行う
  2. 他の共犯者が、離脱の意思表示を了承する

の2点になります(東京高裁判例 昭和25年9月14日)。

犯行着手後に共犯から離脱する方法

 犯行着手後に共犯から離脱する要件は、犯行着手前に共犯から離脱する要件よりも厳しくなります。

 犯行着手後に共犯から離脱するには、

他の共犯者が犯行を実行しないように、犯行を防止する措置を講じる

という要件が必要になります。

 たとえば、

強盗着手後に被害者に同情して、他の共犯者に現金を受領しないように言って立ち去るだけ(最高裁判例 昭和24年12月17日

とか

犯人AとBが被害者に暴行を加え、暴行の途中で犯人Aが「おれ帰る」といって現場を立ち去るだけ(最高裁決定 平成元6月26日

では、共犯からの離脱は認められず、犯行全部について責任を負うことになります。

監禁罪における共犯からの離脱

 監禁罪において、共犯からの離脱が争点となった裁判例として、以下のものがあります。

東京高裁判決(昭和46年4月6日)

 被告人が、他3名と、被害者を乗用車内に監禁連行した上、強姦することを共謀し、被害者を乗用車に無理に押し込め自ら乗用車をA地からB地に運転走行するなどして被害者の脱出を不能にして監禁し、B地に駐車した乗用車内で共犯者が強姦している間、自己の順番を待っていたが、警察に通報されているのではないかとの不安に駆られ、「警察にわかっているかも知れないから、おれはさきに帰るから」とのことわりを言っただけで、なおも共犯者3名に取り囲まれて乗用車内に監禁されている被害者をその場に残したまま単身立ち去り、その後共犯者らがC地まで乗用車を走行させ被害者に対する監禁を継続させたという事案です。

 裁判所は、

  • 被告人が他の共犯者らによるそれ以上の監禁行為の継続を現実に阻止することもなく、ただ単身上記犯行から離脱する旨の意思を表明し、これに対して他の共犯者らが特段の異議をとなえなかったというだけでは、やはり被告人としては、 自己の離脱後における他の共犯者らの実行部分をも含めて、一連の監禁行為の全体に対する責任を免れることはできない

としました。

東京地裁判決(平成12年7月4日)

 被告人が数名の共犯者らと共謀の上、被害者を居室等に監禁するとともに、被害者の安否を憂慮する近親者に対し、身代金を要求するなどしたという監禁、拐取者身代金要求等の事案です。

 裁判所は、

  • 被告人は、監禁等の行為の継続中の当日午後3時8分ころ警察官によって現行犯逮捕されたものであるが、逮捕後、警察官に対して直ちに犯行の概要を自供し、自らの氏名・住居を明らかにしているほか、警察官の指示に従って被害者の解放や共犯者らの逮捕に資する行動をとっており、逮捕されたものとしてなし得る犯行防止措置は尽くしたということができることや、もともと被告人の本件犯行への加功は決して強いものとはいえないし、被告人の逮捕後は残りの共犯者において被告人が逮捕されたことを察知した上、被告人とは無関係に監禁等を継続した(当日午後6時30分頃、被害者を解放したと認定している)ものと認められることなどからすれば、被告人は、警察官に逮捕された後、その説得に応じて捜査協力をしたことにより自らの加功により本件各犯行に与えた影響を将来に向けて消去したものと評価することができる

として、「同日午後3時8分ころ現行犯逮捕され、その後、警察の捜査に協力したことなどにより、自称Eらとの共犯関係から離脱した」旨認定判示しました。

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