前回の記事の続きです。
監禁の行為と人の死傷との間に因果関係が認められない場合は、監禁致傷罪は成立せず、監禁罪と傷害罪の成立となる
被害者に傷害を負わせた暴行が、監禁の機会に加えられたものであっても、監禁状態を維持継続させる目的で加えられたものではなく、別個の動機に基づくものであるときは、監禁致死傷罪が成立するのではなく、監禁罪と傷害罪又は傷害致死罪とが成立し、両罪の関係は併合罪になります。
この点を判示したのが以下の判例です。
不法監禁中になされた暴行により被害者が傷害を負つた場合に監禁致傷罪ではなく監禁と傷害の二罪が成立するとされた事例です。
裁判所は、
- 暴行が不法監禁中になされたものであつても、その手段としてなされたものでなく、別個の動機、原因からなされた場合において、右暴行の結果被害者に傷害を負わせたときは、監禁致傷罪ではなく、監禁と傷害の二罪が成立し、両者は併合罪の関係となる
と判示し、監禁罪と傷害罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
監禁中になされた暴行脅迫行為が別罪を構成する事例です。
裁判所は、
- 暴行脅迫が不法監禁中になされたものであつても、不法監禁の状態を維持存続させるため、その手段としてなされたものでなく、全く別個の動機、原因からなされたものであるときは、右暴行脅迫の行為は、不法監禁罪に吸収されることなく、別罪を構成する
- 被告人のBに対する顔面打撲等の暴行は、不法監禁の状態を保つため、その手段としてなされた旨の摘示はなく、右判示を挙示の証拠と合わせ読めば、右暴行は、右の手段としてではなく被告人が自動車内における右Bの態度に憤慨した結果なされた事実を判示したものと認められるから、たとい、右暴行が不法監禁の機会になされ、その結果被害者に傷害を負わせたとしても、監禁致傷罪は成立せず、監禁と傷害の二罪が成立し、両者は併合罪の関係になる
と判示し、監禁罪と傷害罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
名古屋高裁判決(昭和31年5月31日)
被告人が他と共謀の上、被害者2名を監禁し、その間、こもごも両名を衣紋掛け又は素手で殴り、顔面その他に打撲傷を負わせた事例です。
裁判所は、
- 人を監禁しその機会にこれに暴行を加え、よって傷害を負わせたというに止まり、監禁と傷害との間に因果関係のないことの明らかな前記原判示のような場合には、もはやこれに対し同条(刑法221条)を適用処断すべき余地のないもので、かかる場合には、むしろその監禁の点につき刑法第220条を、傷害の点につき同法第204条を適用した上、右両者を同法第45条前段の併合罪として処断するのが相当
と判示し、監禁罪と傷害罪が成立し、両罪は併合罪になるとしました。
傷害の手段として被害者を監禁し傷害を加えたときにも、監禁罪と傷害罪又は傷害致死罪とが成立し、両罪は併合罪となる
傷害の手段として被害者を監禁し傷害を加えたときにも、監禁罪と傷害罪又は傷害致死罪とが成立し、両罪は併合罪となります。
この点を判示したのが以下の判例です。
暴力団組員の被告人2名がほか2名と共謀の上、Sに指を詰めさせることとし、Sをタクシーに乗せて組事務所に連行した上、約1時間半にわたって同人を取り囲み監視して逃走を防いで同人を監禁し、同人の左腕を押さえ付け、被告人の1人が刺身包丁でSの小指を第一関節から切り落とし、加療約2週間を要する挫断創を負わせた事案です。
裁判所は、
- 傷害の手段として監禁がなされたものであっても、その行為の性質からみて、両者が通常手段結果の関係にあるものとは認められないから牽連犯にはあたらない
と判示し、傷害罪と監禁罪が成立し、両罪は併合罪となるとしました。
なお、逮捕監禁行為自体によって傷害を加える目的で逮捕監禁し、傷害を与えたときは逮捕監禁致傷罪が成立します。
【参考】監禁致死罪は成立せず、逮捕監禁罪と保護責任者遺棄致死罪とが成立するとされた事例
監禁致死罪は成立せず、監禁罪と保護責任者遺棄致死罪とが成立するとされた事例があります。
大阪地裁判決(平成17年10月26日)
小学生の男児を、実母と、同人に代わって男児の面倒を見ていた実母の友人の両名が、共謀の上、約1年7か月間自宅に閉じ込めて監禁し、途中から十分な食事を与えず、栄養失調を基盤とする急性肺水腫により死亡させたという事案です。
裁判所は、
- 男児の死亡は、実母及び友人の遺棄行為によるもので、監禁自体により男児の生命、身体が危険にさらされたとの状況はない
として、実母及び友人につき監禁致死罪の成立を否定して、監禁罪と保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)が成立するとしました。