刑法(遺棄罪)

遺棄罪(6) ~「『遺棄』とは?」「遺棄罪の『遺棄』は、『移置』のみとの解釈がなされる」を説明~

 前回の記事の続きです。

「遺棄」とは?

 遺棄罪(刑法217条)の行為は、「遺棄」です。

 「遺棄」とは、

保護を要する者を保護のない状態に置くことによって生命・身体の危険にさらすこと

をいいます。

 「遺棄」の態様として、

  • 被遺棄者を他の場所に積極的に移動させる場所的移転(「移置」)
  • 被遺棄者との場所的離隔を生じさせるもの(「置き去り」)

が挙げられ、いずれも「場所的な離隔」が「遺棄」の要素であるとするのが通説です。

 遺棄罪が生命・身体に対する危険犯であることから、遺棄行為の概念を検討するに際し、生命・身体に危険を及ぼすという観点から考察すべきとされます。

 この観点から、遺棄行為とは、被遺棄者と遺棄者との間に場所的離隔を伴う被遺棄者の生命・身体に危険を及ぼす行為と考えることができます。

 なので、生命・身体に対する危険を及ぼす行為であるならば、その行為が「移置」であろうと「置き去り」であろうと、また、作為であろうと不作為であろうと、遺棄行為に該当すると考えるべきとされます。

遺棄罪の「遺棄」は、「移置」のみとの解釈がなされる

 保護責任者遺棄罪(刑法218条)の「遺棄」には不作為である「置き去り」が含まれると判例(最高裁判決 昭和34年7月24日)で示されています。

 これに対し、遺棄罪(刑法217条)の「遺棄」は、不作為である「置き去り」は含まれず、作為である「移置」のみであるとの解釈がされています。

 例えば、自宅の敷地内に病気のために倒れている人間を発見したにもかかわらず、何らの処置も行わず、また公務員(消防や警察)に申し出なかったとしても(「置き去り」にしても)、遺棄罪(刑法217条)は成立せず、軽犯罪法1条18号違反(自己の占有する場所内に、老幼、不具若しくは傷病のため扶助を必要とする者又は人の死体若しくは死胎のあることを知りながら、速やかにこれを公務員に申し出なかった者)の犯罪が成立するだけです。

 このことから、遺棄罪(刑法217条)の「遺棄」は、作為である「移置」のみであるとの解釈が導かれます。

 上記の例において、自宅の敷地内で発見した病気のために倒れている人間を山中に移置した場合には、遺棄罪(刑法217条)が成立することになります。

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