刑法(保護責任者遺棄罪)

保護責任者遺棄罪(7) ~行為②「『移置』による遺棄の事例」を説明~

 前回の記事の続きです。

「移置」による遺棄の事例

 「移置」は、作為による遺棄です。

 例えば、単に冷暖房を切って居場所の環境を悪化させたとしても、場所的離隔がなければ遺棄ではありません(この場合、傷害罪あるいは保護責任者遺棄罪(不保護)の成立が考えられます)。

 「移置」において重要なのは、移動による危険の創出・増加の有無です(例えば、家の外に出すなど)

 「移置」による遺棄の事例として以下のものがあります。

大審院判決(大正4年5月21日)

 80歳前後の老人を同居させていた被告人が、病気で起居不自由になった老人を荷車に乗せて路傍に遺棄した行為について、遺棄罪(刑法217条)の成立を認めました。

大審院判決(大正8年8月30日)

 悪性流行性感冒に伴う肺炎を併発した雇人を突然解雇した上、それまで住まわせていた土工部屋から即時強制的に寒気厳しく雪の降っていた戸外に退去させて死亡させた行為について、保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)の成立を認めました。

大審院判決(昭和12年3月28日)

 妻の実兄が病気にかかり歩行の自由を失っていたところを、いったん自宅に引き取ったが、後日、自動車で遠隔地の山林内に運び去り放置した行為について、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の成立を認めました。

大阪高裁判決(昭和41年11月14日)

 ひき逃げの事案で、事故の発覚を恐れて被害者を自車に乗せて運んだ上、途中で降車させて置き去りにした行為について、保護責任者遺棄罪(刑法218条)の成立を認めました。

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